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まえがき近年、脳科学は医療福祉、ビジネス、教育、娯楽など、幅広い分野での応用が期待されている。脳情報技術が活用されるためには、様々な環境において、誰でも簡単に、かつ高精度に脳情報を抽出できるハードウェアが必要不可欠である。脳活動を空間的に詳細に調べることができるMRIは神経科学の基礎研究をはじめ、最近ではニューロマーケティングなどの社会応用を目指した研究にも使用されているが、装置が大型で病院や研究機関などの限られた施設でしか利用できず、専門家でなければ計測が難しいという制約がある。それに対して、脳波は小型で比較的簡単に測ることができるというメリットがある。とはいえ、てんかんや睡眠障害の検査などの臨床用途や、大学や研究機関などで研究用途に用いられている脳波計は、実環境で使うにはサイズが大きく、また、導電性ペーストやジェルを頭につけなければ計測できず、一般の人が利用するにはユーザビリティが低いという問題点があった(ペーストやジェルを利用した脳波計は専門家でなければ装着が難しく、取り外した後に洗髪が必要となるため被験者に負担がかかる)。そこで我々は誰でも簡単に脳波を計測できるウェアラブル脳波計の開発に取り組み、実用化するに至った。本稿ではまず、その基盤となる高性能のドライ電極チップの開発、ウェアラブルを実現するための脳波計測部の小型化、誰の頭にもフィットするヘッドギアの開発について紹介する[1][2]。簡易型ウェアラブル脳波計の開発により、脳波計測を社会実装するためのハードウェア的な基盤は整ったが、一般の人に活用していただくには脳波を利用したアプリケーションも必要である。本稿では、脳波の外国語学習への活用を目指した研究開発についても紹介する。誰でも簡単に脳波が測れるウェアラブル脳波計の開発と実用化 従来型の脳波電極では導電性のペーストやジェルを使わない場合、接触インピーダンスが電極間で大きく異なりノイズの要因となる。このノイズは電極の中に入っているアンプの入力インピーダンスを十分に大きくするという手法で軽減することが可能である。近年では、入力インピーダンスが数ギガ~数十ギガオームと大きな脳波電極が市販されており、導電性のペーストやジェルが不要であることからドライ電極と呼ばれている。我々は、市販のドライ電極に対して300ギガオームというはるかに高い入力インピーダンスをもち、さらに、頭髪を避けてフレキシブルに頭皮に接触する構造を有するドライ電極チップの開発を行った。一般的な脳波電極は直径1 cm程度の円形をしており、これをそのまま頭髪の上に置いても頭皮と十分に接触させることができない。そこで、1つの電極に対して複数本のスプリングを設け、それぞれの先端に直径1 mmの小さなAg球(頭皮との接触部分)を付けることで、頭髪の間を縫って頭皮に接触するドライ電極チップを開発した (図1、特許第6112534号)。12NICTでは脳情報技術の幅広い分野での応用を目指して、実環境下で誰でも簡単に脳波を計測できるウェアラブル脳波計の開発に成功し、現在、計測した脳波を活用するためのアプリケーションの開発を進めている。本稿では、簡易型ウェアラブル脳波計の基盤技術と、脳波を利用した教育(外国語学習)ICTの研究開発の概要について述べる。NICT developed a wearable electroencephalograph system with which anyone can easily mea-sure brain waves under actual environment in order to apply the brain information technology in a wide range of fields. Now, we are studying on its practical application to utilize the measured brain waves. In this paper, we introduce our techniques of the wearable electroencephalograph system and our researches to establish an ICT for education (foreign language learning) using brain waves.6-2 ウェアラブル脳波計の開発とその利用に関する研究6-2Development of Wearable EEG and Research on its Application成瀬 康 井原 綾 常 明 松本 敦Yasushi NARUSE, Aya S. IHARA, Chang MING, and Atsushi MATSUMOTO736 先端的脳機能計測技術
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