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頭にかぶるだけで計測できるウェアラブル脳波計を実現するべく、高性能なドライ電極の開発に続いて、脳波計測部の小型化を行い、8 cm×5 cmのサイズ、スマートフォンの半分程度の80 gの重さを実現した(図2)。脳波計測部は8チャンネルで、計測用パソコンにBluetoothで信号を送る。次に、脳波計測の簡易化のために、脳波電極を装着する帽子のようなヘッドギアを開発した。頭の形は人それぞれ異なっているため、一般的に利用されている脳波電極キャップでは頭にフィットさせるのは難しい。そこで、脳波電極を柔らかいフレキシブル電極シートに装着し、この電極シートを頭に沿わせることで電極を頭に接触させつつ、フレキシブル電極シートの両端を比較的堅い外殻で保持するというハンモック構造を採用し、フィット性の高いヘッドギアを開発した(図3、特開2015-221144)。このように、フレキシブルで高性能なドライ電極チップの開発、ウェアラブルを実現するための脳波計測部の小型化、誰の頭にもフィットするヘッドギアの開発により、我々は実環境下で誰でも簡単に脳波を測ることができるウェラブル脳波計を実現した。その技術は国内企業へ移転し、簡易型ウェアラブル脳波計は既に製品化されて大学や企業で広く使用されている。脳波計測の外国語学習への応用近年グローバル化が進み、外国語によるコミュニケーション力の強化が社会的に求められている。このような社会背景において、外国語教育の質的向上は重要な課題である。教育分野では最近、個人の能力や習熟度に最適化した学習法を提供するアダプティブラーニングが注目されている。我々は、外国語教育におけるアダプティブラーニングの実現のために、脳波を利用した外国語の習熟度評価法とリスニングのトレーニング法の開発を進めている。3.1脳波を用いた外国語習熟度の評価法の研究従来、外国語の習熟度の評価は、ペーパーテストに代表されるように問題に対して回答するという手法しかなく、正解か不正解かでしか評価できない。例えば、外国語が聞き取れない場合、具体的に何が聞き取れていないのか、どこで理解が滞っているかということを評価することはできず、聞いている本人ですら自己認識することは難しい。このように従来型の評価法には限界がある。そこで我々は、脳波計測により、従来型のテストでは反映されない外国語に対する脳の応答をとらえ、新しい習熟度評価法を確立するための研究開発を進めている。外国語の問題に対して回答するのではなく、ただ外国語を聞いたり読んだりするときの脳波で評価できれば、課題を遂行すること自体に難しさを伴う子どもでも正確に習熟度を把握することが可能となる。初めに、日本語母語話者44名を対象として、脳波を利用した英語の語彙力評価法の研究を行った。語彙力評価の指標には事象関連電位の1つであるN400を用いた。N400は意味処理を反映する脳波成分であり、先行する刺激との意味的関連性に応じて振幅が変化する[3]。例えば、2つの単語を連続的に呈示するプライミングパラダイムでは、後続の単語が先行する単語と意味的に無関連な場合、関連がある場合と比べて振幅は増大する。我々の実験では、被験者に物や状況、動作を表す1枚の画像をディスプレイ上に呈示し、その直後にその画像を表す英単語(一致条件)もしくは無関連(不一致条件)の英単語を音声で呈示し、音声に3図1開発したドライ電極チップ。頭皮との接触点が3カ所あるもの(左)と6カ所あるもの(右)。図2開発した小型の脳波計の計測部(左)とこれを基にして製品化された脳波計の計測部(右)。計測部に電極をつなぎ、その電極を頭に付着させる。信号はBluetoothにより計測PCに送られる。図3開発したヘッドギア (a)とヘッドギアを装着した様子 (b)。ヘッドギアには小型の脳波計測部と電極が装着されている。74 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)6 先端的脳機能計測技術
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