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対する脳波 (N400) を計測した。図4 (a)は“pencil”,“reading”など基礎的な英単語に対するN400である。英単語に対する主観的な認知率には差がないにもかかわらず、N400の文脈効果(不一致条件と一致条件のN400振幅の差分)は低スコア群、中スコア群と比べて、高スコア群が大きく、出現も早かった。さらに、N400効果とテストスコアには有意な相関があった(図4b)。これらの結果から、主観ではとらえられない外国語の語彙の習熟度をN400を指標として定量評価できることを示した。次に、脳波を利用して英語音声の聞き取りに関して、音素レベル、単語レベルで詳細に評価するための基盤研究を行った。まず、高スコア群30名と低スコア群30名を対象に中学生レベルの英語のリスニング問題(英検3級)の音声を聞いているときの脳波を計測した。英語音声は音声分析と言語分析を行い、エンベロープ、音素オンセット、単語オンセット、文章オンセット、会話オンセットに対するモデルを構築し、そのモデルを使って、脳波を重回帰分析することにより各要素に対する脳波応答 (Time response function: TRF) を算出した[4]。英語の母語話者を対象とした先行研究では、類似する音素ではその脳波応答も類似性を示し、音素の種類によってクラスター化することが報告されている[5]。そこで我々は、各音素に対する脳波応答を用いて全ての音素間で相関分析を行い、各音素間で脳波応答がどれくらい似ているかを定量評価し、習熟度との関連性について検討した。図5は、子音の音素に関して得られた相関マトリックスを多次元尺度構成法(MDS)を用いて2次元空間上にプロットしたものである。高スコア群では破裂音や摩擦音など子音の種類に応じてクラスター化されているが、低スコア群ではこのようなクラスター化が認められなかった。この結果から、英語に習熟した被験者は子音に対する反応が音素ごとに異なっており、子音を系統的に的確に処理していることがわかる。これは、母語ではない言語の音素に対する反応の可塑性を示しており、学習することで音素の聞き取りに対する応答が改善することを示している。これらの研究の結果は、外国語を聞いているときの脳波を用いて、従来型のテストでは評価できない習熟度を定量的に評価できることを示している。我々はこれらの基礎的知見に基づき、脳活動計測を用いた外国語の習熟度評価法を提案し(特許出願済み)、現在、その実用化に向けた研究開発を進めている。脳波を指標として、学習者個々人の脳波データから外国語の習熟度を要素ごとに詳細に評価することができれば、脳波を用いた外国語のアダプティブラーニングにつながり、学習の効率化を図ることが可能となるだろう。3.2脳波を用いた外国語のニューロフィードバックトレーニングの研究日本語母語話者にとって、外国語の聞き取りは読み書きと比べて難しく、習得に時間を要する。その要因の1つは音素体系の違いである。例えば、英語の音素は44種類あるが(音素数は諸説ある)、日本語の音素は他の言語と比べても少なく24種類しかない。先行研究では生後6カ月の乳児において既に母語に含まれる音素と含まれない音素に対する反応が異なり、成長に伴って母語にはない音素への感受性は減少することが報告されている[6]。言い換えると、日本母語話者の音素の分解能は英語の音素数には不十分で、そのため/l/と/r/,/b/と/v/,/s/と/θ/などの聞き分けが難しい[7][8]。したがって、外国語の聞き取りを向上させるには、母語にない音素の弁別能力を上げることが必要不可欠である。しかし、単語や文法は正解、不正解がわかりやすく自主学習がしやすいが、音素の聞き取りはどのように改善すべきか認識しづらく、指導も難しい。そこで我々は、ミスマッチ陰性電位(MMN)と呼ば図4英単語の習熟度を反映する脳波成分(N400)。(a) 簡単な英単語を聞いているときのN400。 青線は先行する画像と一致する英単語を聞いているとき(一致条件)。赤線は先行する画像と無関連の英単語を聞いているとき(不一致条件)。習熟度によってN400の文脈効果(不一致条件と一致条件の振幅差)の大きさが異なる (b) N400の文脈効果(不一致条件と一致条件の振幅差)とテストスコアは有意な相関を示す。図5子音音素に対する脳波応答の類似性。 高スコア群は子音の種類によってクラスター化されている。756-2 ウェアラブル脳波計の開発とその利用に関する研究
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