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ントロール群ではトレーニング前後で正答率に差がないのに対し、ニューロフィードバック群ではトレーニングによって正答率が34%向上し、トレーニング一週間後にもその効果は持続していた。また、トレーニング前、トレーニング後、トレーニング終了1週間後に2種類のテストの直後に計測したMMNの振幅は、コントロール群ではトレーニング前後で差がないのに対して、ニューロフィードバック群ではトレーニングによって有意に増大していた。そのMMNの振幅増大の効果はトレーニング1週間後にも持続しており、弁別テストと認知テストの正答率向上と同様の変化が認められた。これらの結果から、音声には注意を向けずに聞き流していても、音声によって誘発される脳波を視覚刺激としてフィードバックすることでリスニング能力が向上することを示した。さらには、ニューロフィードバックトレーニングによる”right”と“light”のリスニング能力の向上が、/l/と/r/を含む他の単語のリスニング能力にも波及しているかを検討した。 “light”と“right”に含まれる/laɪt/,/raɪt/を含む単語ペア(例、“blight”- “bright”),/laɪ/,/raɪ/を含む単語(例、“fly”- “fry”),/la/,/ra/を含む単語ペア(例、“glass”- “grass”),/l/,/r/を含む単語ペア(例、”flesh”-“fresh”)の4種類のペアを用いて認知テストを行った。この4条件のうち、/laɪt/と/raɪt/,/laɪ/と/raɪ/,/la/と/ra/を含む単語ペアは、”light”と”right”のニューロフィードバックトレーニングによって有意に認知正答率が向上した。この結果は、単語を用いたニューロフィードバックトレーニングによるリスニング能力の向上は、単語に含まれる子音の音素単独のリスニング能力を向上させるには至らないものの、母音を伴う音素系列に対しては汎化するということを示している。むすび本稿では脳情報技術の社会実装を目指した脳波計の開発と、脳波計測の教育(外国語学習)分野での応用を目指した研究開発について述べた。現在、脳情報工学研究室では、様々な業種の企業と我々が開発した脳波計を活用して共同研究を進めており、今後の産業応用が期待される。謝辞脳波を利用した外国語の習熟度評価法の研究は、関西学院大学の片山順一教授、滋賀大学の尾島司郎准教授(現、横浜国立大学)との共同研究である。脳波を利用したニューロフィードバックの研究は、大阪大学の前田太郎教授、安藤英由樹准教授、古川正紘助教、北海道大学の飯塚博幸准教授との共同研究である。研究メンバーの皆様に感謝する。【参考文献【1成瀬康, “ウェアラブル脳波計が拓く新しいコミュニケーション,” 自動車技術会誌,vol.69, no.3, pp.77–80, 2015.2成瀬康,横田悠右 ,東佑一朗, “ウェアラブル脳波計の開発,” ヘルスケアを支えるバイオ計測,シーエムシー出版,pp.201–208, 2016.3M. Kutas and S. A. Hillyard, “Reading senseless sentences: brain po-tentials reflect semantic incongruity,” Science, vol.207: 4427, pp.203–205, 1980.4M. J. Crosse, G. M. Di Liberto, A. Bednar, and E. C. Lalor, “The Multivariate Temporal Response Function (mTRF) Toolbox: A MATLAB Toolbox for Relating Neural Signals to Continuous Stimuli,” Front Hum Neurosci., 10:604, 2016.5G.M. Di Liberto, J.A. O’Sullivan, and E.C. Lalor, “Low-Frequency Cortical Entrainment to Speech Reflects Phoneme-Level Processing,” Current Biology, vol.25, Issue 19, pp.2457–2465, 2015.6M. Cheour, R. Ceponiene, A. Lehtokoski, A. Luuk, J. Allik, K. Alho, and R. Näätänen, “Development of language-specific phoneme representa-tions in the infant brain,” Nature Neuroscience, vol.1, no.5, pp.351–353, 1998.7P. K. Kuhl, “Learning and representation in speech and language,” Current Opinion in Neurobiology, vol.4, no.6, pp.812–822, 1994.8S. E. Lively, D.B. Pisoni, R. A. Yamada, Y. I. Tohkura, and T. Yamada, “Training Japanese listeners to identify English/r/and/l/. III. Long-term re-tention of new phonetic categories,” The Journal of the Acoustical Society of America, vol.94, no.6, pp.2076–2087, 1994.9K., Alho, D.L. Woods, and A. Algazi, “Processing of auditory stimuli during auditory and visual attention as revealed by event-related poten-tials,” Psychophysiology, vol.31, no.5, pp.469–479, 1994.10H. Tiitinen, P. May, K. Reinikainen, and R. Näätänen, “Attentive novelty 4図7 弁別テストと認知テストの正答率(a)(b)776-2 ウェアラブル脳波計の開発とその利用に関する研究

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