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研究の背景と枠組み1.1はじめに私たちは日常生活において視聴覚を代表とする感覚入力を介して多様な情報を受け取っており、また言語的・非言語的な手段を介して様々な情報を出力している。私たち―あるいはその情報処理を担う臓器である脳―は、このような様々な情報伝達の中枢であり、情報通信の究極の受け手であり送り手である。脳がどのように情報を処理し、解釈し、また生成するかを知ることができれば、より効果的で豊かな情報伝達を実現するための基盤となり得る。2010年代に入り、機能的磁気共鳴画像装置(func-tional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)を代表とする大規模・高精度な脳活動計測技術の発展、及び記録した脳活動を解析するための統計・機械学習手法の高度化に伴い、私たちが日常生活で触れるような多様で複雑な体験下(例:動画視聴時等)における脳活動を定量的に理解する研究が進展している[1][2]。従来の脳研究においては、心理学や生理学等に由来する特定の仮説を検証するためにデザインされた特殊な刺激、あるいは高度に統制されたタスクを用いた研究が主に進められてきた。これら従来型の研究は特定仮説の検証を行う強力な手段である一方で、得られた知見をより自然で複雑な条件下に一般化することは困難であった。上述の技術的進歩に伴って、複雑な体験下における脳活動を直接の研究対象とすることが可能になったことで、例えばCM動画を見ているときの印象内容を脳活動から定量評定する[3]、複雑な知覚内容を脳活動から文章として読み出す[4]、映像として想起した内容を解読することで意思伝達を行う[5]、等の実社会における応用、またそれらを見据えた多様な成果が生み出されつつある。本稿では、自然で複雑な条件下における脳機能の定量理解を行うための枠組み及びその枠組みを活用した研究の具体例について紹介する。1.2脳情報モデル構築と解読の枠組み脳が多様な情報をどのように表現しているかを調べるため、私たちは可能な限り一般化された条件下における実験系を用いた研究を推進している。典型例としては、図1に示すような様々な動画を見ているときの1私たちの自然な日常生活は、複雑多様な情報を処理し、合目的的な行動を生み出す高度な脳機能によって支えられている。近年、脳計測及び解読技術の発展に従い、動画視聴時等の自然で複雑な体験下における脳内情報を定量的に扱う研究が進展している。本稿では、脳情報の定量と解読に関する研究の枠組み及び言語モデルを利用した脳情報解読等、最近の研究成果について紹介する。Our daily life is supported by the precise coordination of the brain functions that process mas-sive, dynamic sensory inputs. Recent advancements in brain activity measurements and analysis techniques have enabled the quantitative modeling of representation and computation in the hu-man brain under natural and complex experiences, such as during watching of movie clips. In this paper, we introduce our framework and recent research outcomes to model and decode human brain activity, in particular using the latent feature space derived from natural language processing techniques.2 脳情報デコーディング技術2Brain Decoding Technology2-1 視覚と認知をつかさどる脳機能の定量的理解とその応用に関する研究2-1Modeling and Decoding of Visual and Cognitive Brains西本伸志 西田知史Shinji NISHIMOTO and Satoshi NISHIDA52 脳情報デコーディング技術
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