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がって総伝送容量 は1,000倍程度増大する余地が残されており、光ファイバ1本当たりPbit/s級の伝送が射程に入ってくる。とりわけディジタルコヒーレント(DC)技術が受信感度と周波数利用効率が向上と光ファイバの線形・歪特性補償性能による伝送距離の延伸に貢献している[11]。我が国では2013年に東名阪幹線系にチャネル当たりの伝送速度100Gbit/s、WDM80波、総伝送容量8Tbit/sのDCシステムが商用導入されたのを皮切りに、チャネル当たりの伝送速度は400Gbit/sへとアップグレードが進み、さらに1〜5Tbit/sも数年内に実用レベルに達するであろう。今後は光パスの距離やトラヒックの変動に応じて、1つのシンボルが担うビット数を変化させる適応変復調が可能な帯域可変トランシーバの導入が進むであろう。例えば、シンボルレート50GbaudでQAM変調*10、偏波多重を仮定すると、(ビットレート, bit/symbol, 距離)は大陸横断では (200Gbit/s, 21, 4,000km)、長距離幹線系では (400Gbit/s, 24, 600km)、データセンター間は (600Gbit/s, 26, 100km)と距離に応じて適応的に変調多値数が異なるシステムへ適用できる。3.2Deterministic超高信頼・極低遅延通信URLLCはいわば「時間指定速配便」である。ユーザ端末から宛先ノードまで信号伝達に要する遅延時間が確定できるという意味でdeterministicである。図1のユーザ端末-DUの無線区間とDU-CUのフロントホールにおける光ファイバ伝送が混在するため、極遅延時間の実現はまさに光無線ネットワーク一体の課題である。例えば、IEEE802.1のイーサネットのTSN (Time-sensitive networking)規格では、フレーム損失がほぼゼロ(送達率>99.999%)、ユーザ端末から宛先ノード間の遅延時間は通常の1/10の1ms以下、ジッタ<1µsと定められている。そのために正確な時刻同期(<1µs)、優先割り込み(preemptiom)、常時帯域確保(dedicated resource)、フレーム複製(rep-lication)、入力データ量統制(ingress policing)等のフレーム転送のメカニズムが工夫されている。フロントホールの光伝送では、低コストの非コヒーレント多値変調を使用し、限られた光ファイバの帯域の有効利用を図ることが求められる[12]。3.3Cognitive光ネットワーク「自分で考え自分で行動する」のがコグニティブのゆえんである。光ネットワークがコグニティブ化に向かうモチベーションは多々あり必然の流れと考える [13]。迅速なサービス提供、さらにNFV*11の導入によるネットワーク装置のコストダウンと保守・運用の自動化によるOPEXの削減等がモチベーションとして挙げられる。そこで参考にすべきは無線ネットワークにおけるソフトウェア・コグニティブ無線技術[14]ではないだろうか。複数の無線方式が選択できるエリア内で、通信の混雑状況を把握し、干渉を避けるために無線方式などを選択することが可能になる。ここには認知・判断学習・行動 (機能変更) のサイクルが自律的に働いている。ソフトウェアという文脈では、既にSDN (Software defined network)の検討が進んでいる。ビットを転送するハードウェアから制御機能を切り離し、コントローラと呼ばれるソフトウェアでネットワークを制御する手法である。SDNによって1つの物理ネットワークのリソースを仮想化しスライスして、スライスごとにQoSが異なるサービスを提供することが可能となる。一方、コグニティブの視点からは、例えば以下のような適応的な運用をモニター(認知)・判断学習・アクションのサイクルを通して全て自律的に行うことが可能になるであろう。—コグニティブ帯域可変トランシーバ:光パスの距離やトラヒックの変動のモニターに基づく、変調多値数の変更と、それに適応した誤り訂正符号・復号化アルゴリズムの変更—コグニティブなサブキャリア割り当て:エラスティックWDMネットワークにおいて波長の使用状況のモニターに基づくグリッドの変更やスペクトルデフラグメンテーション*12おわりに本分野の委託研究の状況にも簡単に触れておきたい。平成30年度の総務省委託研究では、「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術」と「革新的AIネットワーク統合基盤運技術」が開始された。この中には5Tbit/s級光伝送、マルチコア伝送システム、光アクセスメトロ、AIによるネットワーク運用技術などの課題が含まれる。またNICT委託研究では、今年度に「マルチコアファイバの実用化加速に向けた研4*10QAM (Quadrature amplitude modulation):シンボル当たりのビット数を増やす(≧2)ために、信号の電界の振幅と位相を複数のレベルで変調する多値変調方式。*11NFV (Network function virtualization): ネットワーク装置類のハードウェアとソフトウェアを分離し、フリーのOSなどのソフトウェアによって機能を変更できるWhite boxと言われるハードウェアを用いて実現するアプローチ。これによって機能ごとに異なる装置を設備する必要がなくなり、CAPEX が低減できるというシナリオ。*12デフラグメンテーション:元々はハードディスクの断片化解消を意味するが、エラスティックWDMの文脈では虫食い状態になった光周波数スペクトルを解消すること。6 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 2 (2018)2 IoTを支えるネットワークの実現に向けて — DeterministicとCognitiveが鍵 —
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