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IoTは、CPS(Cyber-Physical System)とも呼ばれ、研究開発が盛んに行われている。更なる次の段階は、「自動化(Automation)」である。この段階は、人が介在することなく、モノ同士が自律的にやりとりを行い、街や家庭の至るところで安全性や効率性を保つよう、モノが自動的に動作する状態を指す。M2M(Machine-to-Machine)のコミュニケーションが行き渡った段階であり、いわゆるロボット化が進んだ世界であると言える。過去の蓄積に基づく予測や、何らかの知性に基づいたアクチュエーションにより、街が自律的・自動的に制御され、人々の活動の安全性向上や最適化がなされる。自動車の自動運転において、人が介在しない自動運転レベル(SAE J3016におけるレベル3以上)は、この段階にあると言える。2.2IoTアプリケーションの具体例前記の各過程において、今後本格的な商用化が期待される将来IoTアプリケーションの例を以下にいくつか挙げる。••AR、 MRAR(Augumented Reality)は、現実世界の映像に対し、新たな付加情報等を重畳させて表示するアプリケーションである。センサー情報や、カメラに映った映像情報を分析することで、現実世界にマーカ等を設定することなく、現実世界の映像に対して仮想的な映像を重畳させて表示するARはマーカレスARと呼ばれる。典型的なアプリケーションは、案内情報をヘッドマウントディスプレイやカメラつきスマートフォン上のライブ映像に重畳提示するナビゲーションである。実世界に存在する端末へ、端末や実世界の状態に応じた情報提示が必要なアプリケーションであり、正確な情報提示位置を維持するには高度な精度の分析と、高い応答速度が必要である。米Microsoft社がMR(Mixed Reality)と呼んでいる、現実世界と仮想世界を混合させる体験を提供するプラットフォームも既に登場しており、商用化は始まっていると言える。AR、 MRは、前記分類におけるVisualizationがリアルタイムに実行される形態ととらえられる。••スマート家電スマートフォンやスマートスピーカーと連携して、遠隔操作をすることができる家庭内電化製品がいくつか商品化されている。例えば、音声コマンドによって点灯状態や明るさを制御できる照明等がある。また、利用者がイベントに応じて実行すべきコマンドをあらかじめ定義可能なIFTTTのようなサービスも登場している。これにより、例えば、人感センサーで人が検出されたときに自動的に照明をつける、カーテンを開けるといった動作も定義可能となる。このようなスマート家電はActuationの典型的なアプリケーションであるといえる。••スマート交通IoTによる交通の高度化は、大きな期待が寄せられる分野である。運転者により制御された、または、自律移動する移動体(自転車・車・公共移動手段等)において、街を歩く人の安全を守るためのナビゲーションや運転制御を状況に応じて行う。例えば、スマートフォンの位置センサーや街のセンサー等から、歩行者がそのままの動きをした場合に事故が起こると予見される場合、移動体の運転者への安全運転情報の提供や、移動体そのものの減速制御等を行う。こうした動作は、前記分類におけるActuation、 Automationに相当する。••自走型ロボット自律的に移動することができる自走型ロボットは、Automationの典型的なアプリケーションと言える。例えば、通路脇に設置されたカメラ映像と、ロボットが持つセンサーによって、ロボットの周囲の状態を認識し、適切な方向・速度でロボット自身が移動制御を行う。ロボットが移動するか否かの判断は、フィールドの最新状態を計測・分析しつつロボット間で協調しながら決定する。••セキュリティ実世界との接点を持つIoTにとって、物理的・ソフトウェア的な不正や攻撃を排除し、正しい動作制御を行うための信頼性の確保は大きな課題となる。社会システムを健全な状態に保つには、不正や攻撃等が検知されたとき、他への影響を最小化し、対処を素早く実行することの重要性が高い。素早い対処には、人の介在を待つことなく、不正な動作が検出された端末、デバイス、ネットワークについて自動的に排除・フィルタする等の処理を行う必要がある。こうした動作は、前記分類におけるActuation、 Automationに相当する。エッジコンピューティング3.1エッジコンピューティングの概要  2.2で示したIoTアプリケーションは、例えばセンサーデバイス単体で完結するものではなく、ネットワークを介して通信が必須となるものが多くを占める。高度な処理を必要とするアプリケーションでは、処理全体あるいは一部をクラウド上で実行するコンピューティング形態が多くとられる。例えば、AR、 MRでは、アプリケーションの高度化による情報処理の複雑化に伴い、端末単体で処理すると、消費電力が大きくなる。3104   情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 2 (2018)6 ネットワークの効率的な資源配分を目指す研究開発

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