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う考え方ももちろんあり得るが、実際問題としてみると、ファイバケーブルを納める洞道や管路の断面積にも制限があり、新たな設備の長距離にわたる増設には莫大な工事コストがかかるため、必ずしも容易ではない。設備の増強と並行して、光ファイバそのものにも新たな技術革新が求められている。NICTでは近い将来起き得る、既存光ファイバの容量の逼迫という問題に対して、長期的な取組を視野に、2008年に産学官連携による課題整理のための「光通信インフラの飛躍的な高度化に関する研究会」を組織して、包括的な検討を開始した。「光通信インフラの飛躍的な高度化」の英語名はEXtremely Advanced Transmission であり、頭文字を連ねて、通称EXAT研究会と称し、国内外に向けて光ファイバ通信の容量危機を打破するためのイニシアチブを発信し続けている(なお、EXAT研究会は2010年より電子情報通信学会傘下の研究会に活動の母体を移している)。EXAT研究会での検討の結果、抜本的に光通信インフラの容量を増大させるための、以下の3つの技術開発の方向性が示された。••マルチコアファイバ(MCF: Multi Core Fiber)SSMFがクラッド内に1つのコア(光信号の通り道)しか持たないのに対して、同一クラッド内に複数のコアを設けることによって、伝送容量を増やすことが可能。高度な製造技術を要し、量産性などが課題となる。••マルチモード制御マルチモードファイバそのものは古くからあるが、新技術によってマルチモードの活用の可能性が広がっている。SSMFにおける光の伝搬モード(横モード)は最低次の基本モードに制限されており、このため、コアの直径は10 µm以下の非常に狭い領域に光パワーが集中する。コア径を拡大することで、最低次以外の高次モードが伝搬可能となるが、これらの横モードは分離が困難であり、さらにそれぞれ伝搬速度が異なるためモード分散により光信号のパルスが広がってしまい、高速変調には適さないとされてきた。昨今の技術革新により、複数のモードが分離可能となり、それぞれ異なる高速変調を付与することができるようになった。さらに、コア径を拡大することで非線形性の影響を大幅に低減できる可能性がある。複数モードの伝搬特性の制御及びモード分離の光学系・信号処理などが課題となる。••多値(マルチレベル)変調前述したように、光の振幅や位相などを精密に制御し、1シンボル(パルス)あたり複数のビットを表現することができるようになった。周波数利用効率、ひいては伝送容量を抜本的に向上することが可能。反面、雑音に敏感であり、多値度と伝送距離を両立することが課題となる。空間分割多重技術で世界をリードする産学官連携の取組 これら三種の技術の頭をとって3M技術或いは、Triple-multi techと称し、EXATイニシアチブの象徴的なスローガンとしている。EXAT研究会発足時点で、多値変調技術に関してはある程度先行的研究がなされていたことから、NICTでは更なる発展的研究を奨励しつつ、特にマルチコアファイバ、マルチモード制御を重点課題として「高度通信・放送研究開発委託研究」(以下、NICT委託研究)の枠組みで2010年から研究開発を開始した。マルチコアファイバやマルチモードファイバは、それまで単一コア・単一モードでしか利用されていなかった光ファイバの伝搬モードを、複数多重化することで伝送容量の拡大を図る未来の伝送媒体である。このことにより、光ファイバの伝搬モードは空間的な自由度を新たに得ることから、これらを総称して空間分割多重(Space-Division Multiplexing: SDM)と呼んでいる。2図2 ファイバ伝送容量の推移ファイバ1本当たりの通信容量波長の多重化(WDM)空間の多重化(SDM)信号の多値化19801990200020102020通常の光ファイバの容量限界(入力パワー限界)商用光伝送システム2030 [年]研究開発[ビット毎秒]100P限界を超える技術が必要10P1P100T10T1T100G10G1G信号の高速化(TDM)図3 EXAT Initiativeの目標:3M技術マルチレベル変調マルチコアファイバマルチモード制御x10x10x10x100010 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 2 (2018)3 コアネットワークの大容量化を目指す研究開発
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