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作製技術を確立し、そのQD構造を用いた高性能な光デバイスの数々をこれまで実証してきた[6]-[11]。図6 (b) にQD構造を用いた半導体レーザとAFM(Atomic Force Microscope)によるQDの観察画像を示す。この図に示したようにQDは直径~20 nm、高さ~5 nmの非常に小さな微粒子構造で、その大きさや歪み、形状などを原子レベルで制御することで発光波長や電子準位などの光・電子物性を任意にコントロール可能である。先端ICTデバイスラボに整備されている分子線エピタキシー装置を用い、世界にも類を見ないNICT独自の高密度・高品質QDの形成技術である。この技術によるQDを用いた半導体レーザ(QD-LD: Quantum Dot Laser Diode)は、レーザ発振閾値や効率が温度に対してほとんどぶれない性質を持っている[12][13]。図7に30層積層したQD構造を用いたQD-LDの光出力特性の温度依存性の一例を示す。この図に示したように15~80℃までの温度範囲において発振閾値電流がほぼ変化しない特性が得られている。温度安定性の指標である特性温度T0は~40℃までの温度範囲でT0 = 3240 Kという値であり、これは世界最高水準の特性である(T0は値が高いほど閾値の温度安定性が高いことを示し、一般的な1.55 µm帯の半導体レーザのT0の値は100 K前後である)。また、図8にはQD-LDのレーザ発振スペクトルの温度依存性を示す。発振スペクトルに関しても発振波長の温度変化は非常に小さく、一般的なファブリペロー構造のLDの発振波長の温度シフトdλ/dTが0.8 nm/K前後であると言われているのに対し、このQD-LDではdλ/dT = 0.11~0.15 nm/K であり、非常に温度安定性が高いことを示してきた。材料の性能を根本的に引き上げるQD技術を用いることで、光電子デバイスの飛躍的な高性能化が期待される。前節でも述べたように、NICTではこれまでにT+O bandといった新規波長帯の光デバイスに関しても研究開発を行ってきているが、以上に示したようなQD光デバイス技術とSiフォトニクスによるPICsをヘテロジニアス集積したレーザを作製し、コンパクトな波長可変光源を実証してきた[1][2]。図5(上段、右図)に示したヘテロジニアス波長可変レーザのレーザ発振特性と波長可変特性を図9、図10にそれぞれ示す。特にT-band対応の波長可変光源に関して、一般的にSiには1 µm帯に光吸収があるということがよく知られているため、今までこの波長帯でのSiフォトニクスの研究はあまり行われてこなかった。しかしながら、我々はこの波長帯におけるSiチャネル光導波路の導波損失が~3dB/cm程度とO-bandでの導波損失と比べ、それほど高くないことを見いだし、この図に示したように1 µm帯において、Siフォトニクスによる外部共振器フィルタを用いたヘテロジニアス集積波長図7 量子ドットレーザの出力特性の温度依存性0.00.51.01.52.00100200300400500電流(mA)出力光強度(mW)パルス駆動As cleavedL = 600 mT = 15 ℃~ 80℃図8 量子ドットレーザの発振波長の温度依存性-75-70-65-60-551400140514101415142014251430波長(nm)30℃50℃70℃光強度(a.u.)dλ= 0.11 ~ 015 nm/℃図91µm帯のヘテロジニアス量子ドット波長可変レーザの発振特性と典型的な発振スペクトル00.050.10.150.20.250.3050100150200250注入電流(mA)ファイバ結合光出力(mW)-60-50-40-30-20-100108010821084108610881090波長(nm)光出力(dBm)42   情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 2 (2018)4 アクセスネットワークの大容量化を目指す研究開発

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