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我々を取り巻く社会経済状況は目まぐるしく変革し、国際競争は厳しさを増している。スピードが他を制する世界では、より早く情報をキャッチし有効に活用できた者が利益を享受でき、その傾向は今後ますます顕著になっていくだろう。現代社会においてスピードを支えているのは、コンピュータや情報通信ネットワークのシステムであり、これらについて、技術的アドバンテージを獲得するとともに最大限に利活用していくことが極めて重要となる。情報通信研究機構(以下、NICT)ネットワークシステム研究所では、平成28年度から始まった第4期中長期計画において、第5世代移動通信システム(5G)やその先のBeyond 5G時代を見据え、将来のネットワークシステムに必要となる基盤技術の研究開発を推進している。研究開発の方向として、ネットワークの「大容量化」、「高効率化」、「低遅延化」を目的とし、これらを実現する革新的な技術の研究開発を進めている。毎年1.3倍から1.5倍の割合で指数関数的に増え続ける通信トラヒックを収容するため、ネットワークの根幹を支える光通信システムの「大容量化」は必須である。とりわけ、光ファイバの断面に複数のコアを配置したマルチコアファイバを世界に先駆けて開発し、それに対応するネットワーク装置の実現が急務と考えている。また、5G導入後に現在の1,000倍に達するとも言われているモバイル通信トラヒックの増大や、光アクセスネットワークの大容量化のため、モバイル/アクセス系ネットワークの大容量化、電波の送受信に係る高周波電気信号と光信号の相互変換や広帯域化技術の開発に取り組んでいる。「大容量化」と両輪を成す重要な方向として「高効率化」がある。端的には、限りあるネットワーク資源(伝送容量)を必要な時に必要なだけ割り当てる、あるいは、通信トラヒックが少なくなる経路で通信する等でネットワークの利用効率を高めることである。ネットワークは、光ファイバや電子回路を用いて物理的な信号を通す物理層と、物理層の上を流れるデジタルデータにより構成される論理層に分かれている。利用効率を高めるための柔軟な資源配分は、これまで主に後者の論理層上により提供されてきたが、前者の物理層でも柔軟な資源配分を実現することで、光通信の超高速・大容量性を更に高めることができる。また、大規模クラウドコンピューティングを多数の利用者が共用する通信では、サーバに近いネットワークにおいて輻輳が生じ効率が低下するため、それを回避するためのコンピューティング資源の配置や経路制御方式に関するソフトウェア技術の開発もまた重要である。さらに、今後IoT (Internet of Things) 時代を迎え、人口よりもはるかに多い機械群が通信の主体となっていく。機械同士の通信では、送信した情報に対する回答を受信するまでの時間差を、人間同士の通信と比べて桁違いに小さくしなければ、機械が本来持つスピードを発揮できない。「低遅延化」を実現することで、精密な制御や計測分野等における新たな応用が期待できる。そこで、通信で生じる遅延の要因を除くため、ソフトウェア処理の負担を減らし、送信者から受信者までを光信号のままで接続する通信方式や通信距離を短縮する方式に関する技術開発を進めている。本特集号では、ネットワークシステム研究所並びに企業や大学等と連携した研究開発成果を報告する。まず、2ではネットワーク技術の現状と課題について光産業創成大学院大学の北山研一教授にご寄稿いただいた。3と4ではコア及びアクセスネットワークの大容量化を目指す研究開発、5では光ネットワークのフレキシビリティ向上を目指す研究開発、6ではネットワークの効率的な資源配分を目指す研究開発を取りまとめた。NICTは自ら先端的な研究開発を行っているが、多くの企業及び大学の研究者の英知を集めて研究成果を最大化しつつ、広く産業界の支援を頂いて新しい技術の実用化を進めている。紙面の都合で、個別にお名前を挙げることはできないが、関係機関各位の精力的な活動に改めて深く感謝する次第である。1 緒言1Introduction和田尚也Naoya WADA11 緒言

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