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縮するためにできるだけ発生するイベントに近い場所、すなわち大量のIoTデバイスが点在するネットワークのエッジでコンピューティングを実行したい。フォグコンピューティングあるいはエッジコンピューティングは、ネットワークのエッジに分散配置された小規模なコンピューティングリソースを備えた多数のマイクロデータセンターにおいてリアルタイムのデータ処理を行うため、軽い計算であれば従来のクラウドより素早く実行できる。フォグの由来は“Fog is a cloud close to the ground”にある[6]。図1の左側の縦軸はデータ生成の地点とコンピューティングリソースの距離を高度に例えて、クラウドよりも低い高度に位置することを表している。フォグがクラウドに取って代わるのではなく、センサーからの大量のデータはまずフィルタされ、フォグで処理すべきデータ以外はクラウドへ送られるといったように協調的に働く。マイクロデータセンターを可搬型のPOD*3で構成し、電話局に間借りして設置するCORD*4の検討が進んでいる。テレコムキャリアの最大の課題は収益の向上のためTCO*5を最適化しビット単価を下げることであり、CORDのような電話局を再編・統合は設備コスト(CAPEX)と設備の保守の省力化による管理運営コスト(OPEX)削減の流れと相まって今後加速するであろう。ネットワークの展望:DeterministicとCognitiveが鍵 3.1更なる通話路容量の拡大に向けて有無線通信を問わず通信路容量の拡大は終わりのない挑戦であり、両者の目指すべき技術の方向は一致している[7]。図2には光ファイバ通信と次世代5Gモバイル通信に関して、スペクトル幅、スペクトル利用効率、空間密度の3つの方向の性能向上の目標を示しており、総伝送容量C = M×B×log2(1+SNR)の拡大を3軸上で目指すことになる。5Gサービスの開始は2019年以降と見込まれるので、これらの目標は202x年の近未来の実用化を見据えた数値と考えてよい。5Gでは高周波数帯の利用により周波数帯域を30倍、massiveMIMO*7により5倍、スモールセル化により1,000倍の増加が見込まれている[8]。サービスはデータ転送速度を高速化するeMBB (Enhanced mo-bile broadband)、超高信頼・極低遅延を保証するURLLC (Ultra-reliable and -low latency)、大量のセンサー群を収容するmMTC (Massive machine type communication)に分けられる。一方、光ファイバ伝送技術では、図2に示すように光増幅器の利得幅の拡大によりB=30倍、非線形シャノン限界*8の克服、さらに空間分割多重方式[9][10] *9によりM=10~50倍の拡大が見込まれている。した3図2光ファイバ通信と第5世代(5G)モバイル通信の到達目標:スペクトル、スペクトル効率、空間密度における拡張性[6]に基づき改変。C-RAN*6, CU: Central unit, DU: Distribution unit*3POD: Performance Optimized Data Center、プレハブ住宅的な発想でスピーディーにデータセンターを建設・増設するための可搬型モジュラー。コンピューティングやストレージ リソース プール、電力、ネットワーク・インフラ、電源、冷却装置などデータセンター運用に必要な機器も搭載。*4CORD (Central office re-architectured as a DC):設備コストを削減と電力節減のために電話局を再編・統合し、モジュラー型データセンター (POD)、同一局舎内にモバイル無線基地局、光アクセスの終端装置、光ネットワークのクロスコネクトなどを併設する取り組み。*5TCO (Total cost of ownership):設備の経費(CAPEX:Capital expenditure)と事業維持費(OPEX:Operating expenditure)の合計額。*6C-RAN (Centralized radio access network): 1つの集約ノード(CU)から複数の分散ノード(DU)を張り出し、ユーザの移動に伴うCNシグラリングの抑制や、セル間連携によるパーフォーマンス向上などを実現。*7Massive MIMO:送受信機に複数のアンテナを設置するマルチアンテナ技術であり、スペクトル幅を増加させることなく伝送速度を高め誤りの少ない通信を実現できる。通信路容量はアンテナ数に比例するという情報理論上の証明が拠り所とされている。5Gでは高い周波数帯ではアンテナのサイズ (〜半波長)を小さくできるため超多数のアンテナを利用し、アンテナの指向性を上げるビームフォーミング技術によってミリ波帯でも電波伝播損失を補償できる。例えば、20GHzでは半波長(7.5mm)角のアンテナを12cm四方に256素子搭載でき、数100m程度は到達可能。各ユーザに異なるビームを向けることで多数ユーザを同時接続するユーザ多重と、各ユーザに対して複数のストリームを空間多重によってシステム容量と通信速度の向上が図れる。*8非線形シャノン限界:信号対雑音比の劣化によって通信路容量が制限される「シャノン限界」に加えて、非線形光学効果も加味した通信路容量を与えるのが「非線形シャノン限界」であり、信号強度を上げて信号対雑音比を上げても通信路容量が頭打ちになる。*9空間多重伝送 (SDM: Space division multiplexing):現在普及している1コア、1導波モードの単一モードファイバとは異なり、1心の光ファイバに複数のコアを有するマルチコアファイバ、さらには1コアに複数のモードが伝播でき、個々のモードに異なる信号を伝送できるマルチモードファイバを用いる多重方式。光ファイバの取り回しが可能な太さを考慮すると17コアが限界とみられ、これに3モード多重を用いればM~50が現実的な到達目標と考えられる。52 IoTを支えるネットワークの実現に向けて — DeterministicとCognitiveが鍵 —
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