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情報指向ネットワーク技術の概要と特徴ICN/CCNは従来のホスト中心のInternet Protocol(IP)からコンテンツ中心の通信モデルに移行する新しいネットワークアーキテクチャである。ICN/CCNでは、従来のIPアドレスではなく、「コンテンツ名」を情報識別子として通信を行う。また、ルーターがデータ転送時に自律分散的にキャッシュする「ネットワーク内キャッシュ」を利用する。すなわち、ユーザーやアプリケーションからのデータ要求パケット(Interestと呼ぶ)を受け取ったルーターは、そこに示されたコンテンツ名を基に自身のキャッシュを調査し、キャッシュデータを保持している場合は、ユーザーに直接に(サーバーなどを介さずに)要求されたデータを転送する。このためユーザーは遠方にあるかもしれないサーバーやクラウドへの接続を課せられることなく、近隣のネットワークの中から所望のデータを取得することが可能となる。さらに、マルチパスやマルチホーミング、マルチキャストといった効率性を高める通信技術をサポートすることで、ネットワーク資源の有効活用も行える。結果として、ユーザーにとっては遅延が少なく高品質な通信が、サービス提供者にとってはコンピュータやネットワーク資源を効率的に利用した省エネルギーな通信が可能となる。概念を図1に示す。このようにいくつもの優位性があるICN/CCNであるが、ICN/CCNの実現には、解決すべき研究テーマが数多く存在する。例えば「ネットワーク内キャッシュ」という技術に関して、ルーターが保持するキャッシュの容量が多ければ多いほど、キャッシュヒット率は向上し、ネットワーク全体で見たレスポンスは早くなる。しかし、キャッシュ容量を大きくすることはコストの上昇も招くため、相対的な検討が必要になる。また、たとえキャッシュ容量を大きくしたとしても、全てのルーターが同じコンテンツ(例えば人気のあるコンテンツだけ)をキャッシュしていたのではネットワーク全体としてのパフォーマンス向上の効果は薄れてしまう。どういったコンテンツをどこに配置されたルーターでどれくらいの期間キャッシュすべきかなどは重要な研究課題である。また、ICN/CCN通信の前提になる「情報識別子」若しくは「コンテンツ名」に関し、グローバル・ユニークな(世界でただひとつの)識別子をどう定義するかという議論も欠かせない。しかし現在のICN/CCNにおいては、「情報識別子」や「コンテンツ名」というものは抽象的なものとしてとらえることができ、ウェブで用いられるURLのような階層的な名前(例えば、/example.com/today/video.mpg)も、「○×倉庫の温度」というのもICN/CCNで扱える情報識別子になる。ここで重要なことは、その情報識別子を、どこで、どのようにして用いるかということであり、つまりネットワークやサービスの適用範囲(スコープあるいは名前空間)を決めれば、識別子自体が必ずしもグローバル・ユニークな識別子である必要は無くなる。とは言え、グローバル・ユニークな情報識別子に対する取決めも必要であり、これに関しては、ルール作りや標準化と共に議論されていく必要があり、時間をかけて多くの組織と一緒に定めていくものと考えている。ICN/CCN実現のために必要となる様々な研究テーマにおいて、NICTでは「ネットワーク内キャッシュ」「経路制御」「トランスポート」「セキュリティ」などの基礎研究に加え、Ceforeと呼ぶ通信ソフトウェア・プラットフォームの開発 [1] を行っており、それをオープンソースとして公開している。以下では、特に3図1 情報指向ネットワーク技術(ICN/CCN)の概念図コンテンツ要求パケット:コンテンツデータ:名前ベース経路制御ccn:/nict/event.jpg大規模マルチキャストストリーミング高速・低遅延モビリティ・耐故障エッジコンピューティングやクラウドとの連携ネットワーク内キャッシュ・処理セキュリティ・プライバシー94   情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 2 (2018)6 ネットワークの効率的な資源配分を目指す研究開発

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