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「リアルタイムストリーミング用トランスポート技術」と「Cefore実装」に関して説明する。ところで、言葉の定義として、厳密にはICNとCCNは異なる意味をもつ。ICNはより抽象的なネットワーク技術を示し、CCNはICNの代表的な一提案にすぎない。つまり、CCN以外のICNアーキテクチャもいくつか提案されているが、これまでのICN研究の潮流とCCNの特徴や利点を鑑み、NICTではCCNをベースとした研究を行っているため、本稿ではICNとCCNは同義のものとし、これ以降、CCNという言葉で統一して説明する。ネットワーク内キャッシュとネットワーク内符号化を活用したリアルタイムストリーミング近年4K/8Kなどの高品位な映像(ストリーミング)サービスに対する需要が増しており[2]、今後も更なるストリーミング転送量の増加が予想される [3]。特にライブ放送のように低遅延が要求されるリアルタイムストリーミングサービスにおいて、ユーザーに対する通信品質(Quality of Experience(QoE))を高めることは最重要課題のひとつと言える。高品位ストリーミングにおけるQoE向上を目的とした場合、通信量の増加に応じてネットワーク容量を対応させる技術、あるいはデータ欠損を防ぐために再送される重複データ転送量を抑える技術が必要になる。しかし高品位なストリーミングであるがゆえに、ネットワーク帯域を占有してしまう可能性が高く、結果として輻輳をより増幅させてしまい、輻輳発生時に適切にデータ受信が行えずQoEの低下を招く恐れがある。このような背景において、我々は、CCNの概念に基づく、ネットワーク内キャッシュとネットワーク内符号化を活用したリアルタイムストリーミング用トランスポート技術を開発した [4]。当技術は、従来のホスト中心型の制御では不可能であった、ネットワークによる通信帯域や通信状態の把握及びそれに基づくデータ転送量の制御を可能とし、さらに従来のCCNよりも制御メッセージ転送量を減少させることで、ユーザーに対するQoEを向上させる。提案手法の基本的な考え方は、CCNの特徴である「ホップバイホップ転送」を利用した通信制御技術である。簡単にいうならば、ストリーム受信者が送出するデータ要求パケット(Interest)と、それに対して送られてくるデータパケットがノード間(例えば、ルーター間)で交換されるタイミングにおいて、各ノードが「リンク許容遅延」及び「パケット損失率」を把握しネットワーク内キャッシュとネットワーク内符号化による冗長データを利用して損失データを許容遅延内に復元する [4]。さらに、ネットワーク資源を有効活用するために、「Symbolic Interest(SMI)[5]」と呼ばれる特殊なInterestメッセージを用い、効率的なマルチキャスト転送及びマルチパス転送を行い、コンテンツフロー同士が公正にネットワーク帯域共有を行えるように映像品質の調整を行う。ストリーム受信者及びルーターが行う手順は以下のとおりである。受信者はデータ要求としてInterest メッセージを送出する際、パケット中のオプショナルヘッダにてSMI であることを明示し、ルーターが管理する「Pending Interest Table(PIT)(コンテンツ名と下流のデータ転送先インターフェースの対応表)」に、エントリーが維持される最大生存時間(SMI_LT)(例えば、2秒)を指定する。ルーターは SMIを受信してPITに当該コンテンツ名のエントリーを挿入する際、データのセグメントIDの代わりに、「++segment」という予約語を付与し(例えば、/example.com/video1/++segment)、各データが持つ単一のセグメントID を除く部分の名前が一致したストリームデータは全て送信することを記録する。SMI_LT が期限切れになるまで該当エントリーは消去されず、受信者は継続的にストリームデータを受信できるため、受信者は数秒間隔でSMIを転送し、上流のルーターが保持する PITのSMI_LTを更新する。この手法は、受信者に複雑な通信制御を課すことなく、またコンテンツの再生ビットレートにも依存することなく、制御メッセージ(Interestメッセージ)量を抑制しながら、常にマルチキャスト通信を行い、無駄な重複データ転送を回避させることができる。図2に提案手法のシステムアーキテクチャを示す。SMIを利用することで、従来の受信したいパケット単位に要求しなければならない高頻度な Interest 送出を抑制することが可能となり、パケット単位ではなく時間単位でリアルタイムストリーミングデータを受信することができる。Regular Interest(RGI)は従来のCCNが行う受信パケット単位のInterestであり、これは損失データの再送を要求するために用いる。Control Interest(CNI)は、主に上流ノードに付与すべき符号化データの量を指定するために用いる。ビデオデータはScalable Video Coding(SVC)による階層符号化データを用いる。コントロールプレーンでは、受信者はビデオ品質(例えば、コーデックの階層)を指定してSMIを発行する。各ルーターは上流リンクのネットワーク状態と推定リンク許容遅延を基に、(1)使用するリンクとビデオ品質を決定しSMIを送信し、(2)目標データ転送成功率を達成すべく、必要に応じて冗長符号化データの使用4956-2 情報指向型ネットワーク技術

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