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アンテナの開発は、平成24〜26年に実施された電波利用料“周波数の有効利用を可能とする協調制御型レーダーシステムの研究開発”の成果[11]が利用された。偏波化されたフェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)3.1MP-PAWRの諸元と観測範囲表2にMP-PAWRの主要な諸元を示す。MP-PAWRは国土交通省に整備されているXバンドMPレーダー雨量計と同様の観測範囲80kmの通常観測モードと、それより少し狭い観測範囲60kmの研究観測モードの2つのモードを有する。前者は複数の気象レーダーから構成される観測網を想定し、自局の真上の観測は行わず、周囲の他局による横方向からの観測を利用することを想定し、観測仰角範囲は0〜60度と仰角60度以上の観測は行わない。また、偏波観測の測定精度の向上を図るために、同一観測体積の観測に利用するヒット数を60ヒット以上確保するため、方位角方向の回転を一周60秒とし、仰角方向のビーム数を77としている。それに対し、研究観測モードでは一台のレーダーで、自局の真上を含む周囲の降雨三次元観測を行うため、観測仰角範囲は0〜90度とし、三次元観測の時間分解能を通常観測モードより良い 30秒とするために、方位角方向の回転は一周30秒である。これらのことにより、観測ヒット数が少なくなるビームがあり、20ヒットとかなりヒット数が少ない場合がある。今後、これら2つにモードを適宜変更して降雨観測を行い、目的に応じた観測モードの最適化を行うことを計画している。図5に埼玉大学に設置されたMP-PAWRの外観の写真と、2つの観測モードでの観測範囲について違いを地図上に示す。通常観測モードでは、半径80kmの範囲で降雨観測が可能であり、首都圏の大規模河川である一級河川の荒川流域を上流の秩父地方から下流までほぼカバーする。研究観測モードでは、半径60kmの範囲と少し観測領域が狭くなるが、2020年度夏季に開催される東京オリンピック・パラリンピックの開催会場の多くをカバーし、夏季に多い活発な積乱雲の生成・発達を30秒という高い時間分解能で観測できる。3.2孤立積乱雲の観測例(2018年8月2日)図6に、2018年8月2日に観測された孤立した積乱雲の観測結果の例を示す。図6の下段の5枚の図は、MP-PAWRの30秒ごとの観測結果を、2分間隔(15:07〜15:15:8分間)に間引き示している。これらには、上空、高度4〜6km付近で生成された降雨域が、短時間で成長、地上に向かって落下してくる様子が明瞭にとらえられている(図6下右図の赤色の矢印で示す)。図6中央の写真は埼玉大学から撮影された15:10:46の東〜南方向の写真で、赤色と黄色の矢印で示されている積乱雲が、図6下右図の15:15のMP-PAWRでの観測結果のレーダーエコーに対応している。写真とレーダー観測結果と比べると、写真の15:10:46の時点で積乱雲としては明確に生成・発達されている状況がわかるが、レーダーエコーではまだとらえられていない。積乱雲の生成段階では、まだ雲中の水滴が小さく、X帯のマイクロ波レーダーでは観測できず、水滴が大きく、雲粒から雨粒程度になり、観測可能になる(雲粒を観測するにはより高い周波数で波長の短いミリ波の雲レーダーが必要)。図6の左上と右上に示した三次元のレーダーエコーは、関東域に設置された43図6 MP-PAWR の観測例(XバンドMPレーダーとの比較)XバンドMPレーダー•4基合成•5分ごとMP-PAWR•30秒ごと15:05-15:1015:10-15:1515:0715:0915:1115:1315:1572018年8月2日15:05-15:15 JST6   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測

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