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行われているOST (The Origins Space Telescope) の搭載機器のひとつであるHERO (Heterodyne Re-ceiver for OST) は約0.5~2.7 THzのマルチビーム受信機で構成される[14]。NICTにおいても、テラヘルツ波(0.6、 0.7、1.83、2.06 THz帯)で地球大気を観測する衛星システム(SMILES-2)[15]の検討が進められており、そのためのテラヘルツ波受信機の開発も行われている。3.2ホットエレクトロンボロメータミキサテラヘルツ波における高感度ヘテロダイン受信機として、SISミキサを2で紹介したが、0.7 THzを超える周波数では、入射する電磁波の光子エネルギーにより超伝導特性が破壊されてしまうため性能が劣化し始める。特に1.5 THzを超える周波数においては、SISミキサに変わる受信機として、ホットエレクトロンボロメータミキサ(HEBM:Hot Electron Bolometer Mixer)と呼ばれる受信機が開発・利用されている。その構造・動作原理を図7(a)に示す。心臓部となるのは超伝導薄膜であり、NbN等の超伝導材料が用いられる。ここにテラヘルツ波が入射されると、そのエネルギーを吸収してホットエレクトロンが生じる。その領域はホットスポットと呼ばれ、超伝導状態が破壊された領域である。入射テラへルツ波のエネルギーが少ない場合は、超伝導薄膜の一部が常伝導状態となった超伝導・常伝導の混在状態となり、入射エネルギーの増加に伴いホットスポットの領域も拡大し、十分強いエネルギーが入射すると完全に常伝導状態になる(図7(b))。テラヘルツ波の入射により、一部の超伝導が破壊されるということは、その分抵抗が生じるということであり(図7(b))、このことにより、このデバイスはテラヘルツ波のパワーを検出するボロメータとして利用できると言える。 しかしHEBMは単にボロメータとしてだけでなく、ミキサとしても動作することが特徴である。今ここに、2つの僅かに周波数の異なる(例えば周波数差が1~3 GHz程度)テラヘルツ波(RFとLO)が入射した場合、それらの差周波であるギガへルツのホットスポット領域の変化に追随できるほどの高速応答特性を持つため、IF信号を波として検出することができる。HEBMをミキサとして動作させる時には、LO信号の入射により一部超伝導が壊れた状態に(ポンピング)しておき、そこにRF信号を入射することでテラヘルツ波のスペクトルを検出する。より周波数の安定したLO信号を用いることが、高い周波数分解能の測定にとっては重要となる。ホットエレクトロンは、拡散冷却やフォノン冷却により、両側の電極や基板に熱が逃げることにより冷却されるが、冷却効率を上げることにより受信機のIF帯域を広くすることができる。一般的にはHEBMのIF帯域は3 GHz程度であるが、様々な工夫により広帯域化も進んでいる[16]–[19]。また、HEBMのデバイス自体には周波数の限界がないが、更なる高周波化のためにはアンテナや局部発振器の開発が重要となる。NICTでは、機構内のクリーンルームにおいてHEBMデバイスの作製、受信機の組立て、性能測定を行っている。図8に作製したデバイスの共焦点レーザ走査型顕微鏡(CLSM: Confocal Laser Scanning Microscopy) によるデバイス中心部及び全体図、ミキサマウントの写真を示す。超伝導薄膜は、図8(a)のログスパイラルアンテナの中心部にある(図では右上の拡大図の縦の黒い線の箇所であるが、倍率がまだ十分でないため確認するのは難しい)。超伝導薄膜のサイズは、例えば長さ0.2μm × 幅 2 μm × 厚さ 3 nm程度である(設計によって長さや幅、厚みは変わる)。拡散冷却の効率を高めるために長さ0.1μmのデバイスも作製される。ログスパイラルアンテナは、インピーダンスが周波数によらず一定であるため広帯域で図7 (a) HEBMの構造、動作原理。(b) 入射テラヘルツ波により抵抗が生じ、超伝導状態から常伝導状態へと変化する。(a)(b)96   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測

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