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3.3テラヘルツ波ヘテロダイン受信機用局部発振器HEBMをミキサとして動作させるためには局部発振器(LO)が必要であるが、要求される仕様としては、出力約10 μW以上のコヒーレントな連続発振(CW)光源であること、周波数可変でかつ安定していること、コンパクト、低消費電力であることなどがある。我々がLOとして用いているのは、マイクロ波の増幅・逓倍によるテラヘルツ波発振器 (AMC source: Amplifier/Multiplier Chain source) とテラヘルツ量子カスケードレーザ (THz-QCL) である。AMC発振器は常温動作する周波数安定な光源であり、周波数は現状では 2 THzにおいて約 20 μWであるが、3 THzでは約 1 μWなのでLOとしては若干出力が足りないため、今後の開発が期待される。THz-QCLとは化合物半導体(GaAs/AlGaAs)を用いた超格子と呼ばれる構造を持つ物質により、サブバンド間のキャリア遷移によるテラヘルツ波を発生するデバイスである。さらに、同じユニットを多数積層することで、1つのキャリアがユニット間を遷移しながら(滝(カスケード)のように落ちながら)発振を繰り返すため高出力が得られる特徴を持つ[20]。THz-QCLは、同じ材質で構造を変えることにより2~5 THzの周波数範囲内の任意の周波数で発振させることができるレーザで、冷却(10~50 K)することによりCW発振で100μW以上(~10 mW)の出力がある。今後の開発として、高温(液体窒素温度 77 Kやペルチェ冷却)動作での高出力発振や広い周波数可変性能等が期待される。フリーランでは周波数が安定していないので、高精度分光に応用するには位相ロックが必要である。THz-QCLもNICT内のクリーンルームでのデバイス作製、マウント、性能測定を行っている。図11に作製されたTHz-QCLデバイスの走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope) 写真とチップキャリアに装着されたデバイスを示す。図11(a)に示す高さ10μm幅40μmの活性層 (active region) は多層構造から成り、活性層の上下を金で挟んだメタル-メタル導波路構造を持つ。図11(b)に示すデバイスサイズは、長さ1.5 mm、幅 500μmであり、均等にバイアスを供給するために複数の金線がボンディングされている。THz-QCLを冷却するために用いられるのは、フロー型の液体ヘリウムクライオスタット(約 10 Kまで冷却可)、または機械式冷凍機(約 45 Kまで冷却)である。図12(a)にクライオスタット内に取り付けられたTHz-QCLを、図12(b)に機械式スターリング冷凍機を示す。冷凍機の冷凍能力は11 W /77 Kである。図13(a)に3.1 THzで発振するTHz-QCLの動作温度 25 Kにおける電流-電圧特性と電流-出力特性を(出力はCW発振で約100μW)、図13(b)に発振周波数のバイアス電流依存特性を示す。NICTでは3.1 THzと3.8 THzでCW発振するデバイスの作製に成功している。出力は動作温度依存があり、高温になるほどに低下していく。発振周波数も温度やバイアスによって変わる。このデバイスの発振周波数のバイ図10 HEBMの電流-電圧特性図11(a) 作製されたTHz-QCLデバイスの走査型電子顕微鏡(SEM) (b) チップキャリアに装着されたデバイス(長さ1.5 mm, 幅500 μm)。均等にバイアスするために複数の金線がワイヤボンディングされている。(a)(b)98   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測

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