波数精度の分光測定が可能となる。さらに我々は、複数のTHz-QCLを同時に位相ロックすることにも成功した。参照信号として光コムの3本のモードをフォトミキサ(UTC-PD:Uni-Traveling Carrier Photodiode)に導入することで2周波のTHz波を同時に発生させ、それぞれに対応するTHz-QCLとのビートを1台のHEBMで検出し、2台の位相ロックシステムを用いて位相ロックをかけることに成功した[25]。THz-QCLの位相ロックには、現状では長期間維持することができないという課題があるが、例えば飛翔体を用いた長期運用システムへの応用のためには重要である。その原因として、発振周波数が時間と共にゆっくりとシフトしていくことがある。このことは、フリーランでの発振周波数を測定することでも確認されている。位相ロックバイアスをモニタして、ある閾値に到達したら(すなわち、ある程度周波数が最初の値から外れたら)、THz-QCLのバイアスを若干変えることで周波数を戻すという制御を行うことで、これまでよりも長時間(約 48時間)位相ロックを維持することに成功した[26]。更なる長時間位相ロックの実現や、また位相ロックが外れたことを自動検出し元に戻すシステムの開発にも取り組んで行きたい。5.2ガスセルを用いた受信機動作実証開発した受信機が、実際に分子から放射される電波を受信できることを確認するために、ガスセルを用いた実験を行った。図19に実験系を示す。写真では、2 THz帯のAMC発振器を用いているが、2 THz帯や3.7 THz帯の位相ロックをかけたTHz-QCLも用いた[27]。図20に、測定された分子からの放射電波スペクトルを示す。測定分子として、テラヘルツ波に多くのスペクトルを持つエタノール(CH3OH)や水(H2O)、水の同位体(HDO, D2O)を用いた。ガスセル内に圧力約50 Pa (100 Pa)(常温)で分子ガスを封入した状態と、ガスの含まれない(窒素ガスを約 104Pa封入した)状態における信号を、液体窒素温度の電波吸収体をバックグランドとしてHEBMで測定し、それらの差分を取ることでスペクトルを検出した。検出にはデジタル分光計(XFFTS: eXtended bandwidth Fast Fourier Transform Spectrometer)(サンプリング5 GS/s、AD 10bit、帯域2.5GHz、約 32,000チャネル)を用いた。DSB(Double Side Band)で受信しているため、LOに対してLSB(Lower Side Band) とUSB(Upper Side Band) 側にある両方のスペクトルが、折り返されて観測IF帯域内に検出されている。測定されたデータの周波数は、JPLカタログ[28]や、HITRAN (high-resolution transmission molecular absorption database)[29]のデータベースによって一致することを確認した。図20 (a)と(b)には、ガスの圧力を変えた測定を示す。(b)の方の圧力が高いため、圧力広がりにより線幅が広がっているのが分かる。図16(a) 検出されたビート信号。RF:14.742682 GHz × 216=3184.4193 GHz、IF:400 MHzとLSBであることから、THz-QCL周波数は3184.8193 GHzと測定できる。(b)IF周波数が約14.5 GHzでもビート信号が検出されている。(a)(b)図17 THz-QCLの位相ロックシステム。THz-QCLとTHz波参照信号のビートをHEBMで検出し、それを同じ周波数のマイクロ波参照信号を用いて、エラー成分を抽出し、THz-QCLのバイアスにフィードバックをかけて位相ロックする。1014-4 テラヘルツ波高感度ヘテロダイン受信機の開発
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