まえがきライダー(LIDAR: Light Detection And Ranging「光検出と測距」)は、光を用いたリモートセンシング技術の一種である[1] [2]。ライダーは、大気中にパルス状の光を照射し、測定対象からの散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離とその性質を計測するものである。近年では、自動運転のセンサ技術としてのライダーに注目が集まっているが、その一方で、ライダーは古くから大気と気象の研究に用いられてきた。ライダーは、レーザを使ったレーダーという意味で、レーザレーダーとも呼ばれる。電波を用いるリモートセンシング技術であるレーダーとの最も基本的な相違は、周波数が高い(=波長が短い)電磁波を用いることである。波長の長い電波と比べて波長の短い光は、大気中の様々な微粒子と強い相互作用を起こす。そのため、気象レーダーの主な観測対象は、雨や雪などの比較的大きな降水粒子であるのに対し、ライダーは大気のより小さな構成要素である大気分子や大気微粒子(以下、エアロゾル)の観測を得意としている。利用する光の散乱機構(ミー散乱、レイリー散乱、ラマン散乱など)や観測対象の違いによって様々なライダーが存在し、特に風を測定対象とするライダーは、ドップラー風ライダーと呼ばれる。リモートセンシング研究室では、ゲリラ豪雨や竜巻等に代表される極端気象の早期捕捉や発達メカニズムの解明に貢献する、風、水蒸気、降水等を高時間空間分解能で観測するリモートセンシング技術の研究開発を行っている。ドップラー風ライダーは、晴天時でも風に関する情報を三次元で取得可能な光リモートセンシング技術である。多くの極端気象及びその発生・発達メカニズムと風には密接な関係があるため、極端気象の早期捕捉や発達メカニズムの解明や予測技術の向上に有効な手段である。また、将来的にドップラー風ライダーの衛星搭載化が実現した際には、天気予報や台風進路予測の飛躍的な精度向上をもたらすと期待されている。本稿では、風を測定する光リモートセンシング技術であるドップラー風ライダーとそのドップラー風ライダー用の光送信機として開発を行っている高出力アイセーフ赤外パルスレーザについて紹介する。ドップラー風ライダー風に乗って運ばれている大気分子、エアロゾルや雲にレーザ光を当てると、ドップラー効果によって散乱信号の周波数が送信時と比べて僅かにシフトする。ドップラー風ライダーは、このドップラーシフトした散乱信号の周波数を測定することで、風を高時間・高空間分解能で測定するライダーである。ドップラー風ライダーによる測定方法は、検出方式によってコヒーレント方式と直接検波方式の2つに分けられる。本稿では、NICTで開発を実施している光ヘテロダイン検波を用いるコヒーレント方式のドップラー風ライダー12本稿では、NICTのリモートセンシング研究室において取り組んでいる、ゲリラ豪雨や竜巻等に代表される極端気象の早期捕捉や発達メカニズムの解明に貢献する「風」を高時間空間分解能で観測する光リモートセンシング技術であるドップラー風ライダー及びその光送信機として開発しているアイセーフ赤外パルスレーザについて述べる。NICT is conducting studies of remote sensing technologies that can measure atmospheric wind, water vapor, and precipitation with high temporal and spatial resolutions for early detection of ex-treme weathers. Doppler lidars are suited for accurate measurements of wind profiles in clear-sky conditions using various beam scanning and processing techniques. In this paper, we introduce an eye-safe infrared pulse laser which is used as transmitter of coherent Doppler lidar system.4-6 光リモートセンシングのためのアイセーフ赤外パルスレーザ開発4-6Development of Eye-safe Infrared Pulse Laser for Remote Sensing青木 誠 佐藤 篤 石井昌憲Makoto AOKI, Atsushi SATO, and Shoken ISHII1174 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測
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