[3]について述べる。コヒーレント方式の散乱体はエアロゾルや雲であることから、その主な測定範囲はエアロゾル濃度が高い、大気境界層内(地上から1、2 km程度)から対流圏中部である。光ヘテロダイン検波は、非常に狭帯域で外乱による信号光の強度変動に影響されにくいことから、昼夜を問わず観測が行えることが大きな特徴のひとつである。また、直接検波方式と比べて比較的小さな口径の望遠鏡を使用しての観測が可能なことから、ビーム走査光学系を使用しての三次元観測や小型化・軽量化による航空機や衛星などの飛翔体への搭載も容易である。ドップラー風ライダーの光送信機には、単一波長のパルスレーザが用いられ、この技術がドップラー風ライダーの最もコアな技術とされている。NICTでは、この主要技術である光送信機とその関連技術の研究開発を進めている[4]–[7]。図1にドップラー風ライダーの概略図を示す。ドップラー風ライダーは主に、単一波長で発振するシードレーザ、高出力なパルスレーザ、送受信の望遠鏡とレーザビームをスキャンするための光学系、受信した散乱信号をヘテロダイン検波する光検出器、信号処理及び観測制御を行う計算機から構成される。連続波(CW: continuous wave)で発振するシードレーザから得られたレーザ光(周波数: f0 Hz)は、光分岐器で2分割されて、一方はヘテロダイン検波のための局発光として用いられる。もう一方は、ヘテロダイン検波及びドップラー成分の正負の判断のために、周波数変調器で周波数オフセットが加えられ(周波数: f0 + fmod Hz)パルスレーザの周波数制御に用いられる。パルスレーザによって生成されたパルス光は、望遠鏡及び走査光学系を通り大気へと射出される。散乱体によって後方散乱されたパルス光(周波数: f0 + fmod + fd Hz)は、送信と同じ望遠鏡によって集められた後、光結合器で局発光と混ぜられて光検出器によってヘテロダイン検波されてビート信号(周波数: fmod + fd Hz)として検出される。パルスレーザとシードレーザの周波数オフセット量(周波数: fmod Hz)も同様の手法で検出を行う。ヘテロダイン検波された信号は、ADボードでサンプリングされた後に信号処理されて、レンジごとの視線方向ドップラー速度を含むプロダクトデータが生成される[8]。現在、NICT本部(東京都小金井市)には、モジュール化された2台のドップラー風ライダーがあり(図2)、6号館研究棟の屋上に設置して試験運用を行っている。アイセーフ赤外パルスレーザ開発ライダーにとって、光送信機であるパルスレーザは最も重要な基盤技術のひとつである。特に、レーザ光を水平走査(plan position indicator)することで風の水平分布、仰角方向に走査(range height indicator)することで垂直断面の観測を実施するドップラー風ライダーの場合は、人の目に対する安全を考慮して、波長が1.4から2.6 µmの人の目に対して損傷閾値が高いアイセーフレーザが用いられる。90年代から固体レーザ技術の躍進により2 µm帯の固体レーザ[9]が、3図1 コヒーレント方式ドップラー風ライダーの概略図シードレーザ周波数変調器パルスレーザ雲エアロゾル送信信号受信信号視線方向風速:Vr=λfd/2光分岐器光分岐器光結合器・検出器走査光学系望遠鏡送受信号分離素子f0f0+fmodf0+fmod+fd光信号の周波数信号処理・観測制御装置光結合器・検出器電気信号:fmod+fd電気信号:fmod図2 NICTで開発された2台のドップラー風ライダー航空機搭載ドップラー風ライダー可搬型ドップラー風ライダー118 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測
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