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最近では光部品の入手性などから1.5 µm帯の光ファイバー型のレーザ[10]が用いられるようになっており、現在ではこれらの波長帯がドップラー風ライダーの光送信機として主流になっている。開発を進めているドップラー風ライダーの光送信機は、イットリウムリチウムフルオライド(LiYF4またはYLF)結晶に、ツリウム(Tm)とホルミウム(Ho)を共添加したTm,Ho:YLF媒質を用いた2 µm帯の固体レーザ(Tm,Ho:YLFレーザ)である。このレーザは、アイセーフかつ高出力・高パルスエネルギー動作が期待できる点、二酸化炭素及び水蒸気の吸収線が発振波長付近に位置している点から、ドップラー風ライダーや二酸化炭素及び水蒸気の差分吸収ライダー(DIAL: DIfferential Absorption Lidar)の光送信機として用いられてきた。これまでに、-80℃のレーザ動作温度において、平均出力2.4 W(パルスエネルギー80 mJ、パルス繰り返し周波数30 Hz)の伝導冷却側面レーザーダイオード(LD)励起型のTm,Ho:YLFレーザの開発に成功している[6]。現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で開発された超低高度衛星技術試験機「SLATS」が打ち上げられ実証試験が行われている。衛星搭載ドップラー風ライダーの光送信機としてSLATS後継機への搭載した際に、要求される風の観測精度を満たすことが可能な出力[11]である平均出力3.75 W(パルスエネルギー125mJ、パルス繰り返し周波数30 Hz)のパルスレーザの技術実証をひとつの開発目標として、従来のレーザをベースとして更なる高機能化のための研究開発を進めている。レーザ開発における課題は、システム全体の消費電力の低減、高出力・高パルスエネルギー化及び小型化である。この問題を解決するためには、従来のレーザと比べてより高温で高効率に動作可能なレーザが必要になる。開発のターゲットとした温度帯は、レーザの発振効率と排熱、消費電力の観点から-40~-30℃とした。この温度帯では冷却手段が豊富に存在し、アンモニアやエタンのループヒートパイプやヒートパイプを用いて、レーザロッドから効率的な排熱が期待できる。その温度帯で、効率的な動作を実現するために、高密度励起レーザモジュール及びMaster Oscillator Power Amplifier (MOPA)構成のTm,Ho:YLFレーザの研究開発を実施した。3.1高密度励起レーザモジュール開発従来のTm,Ho:YLFレーザは、レーザロッドに、直径4 mm、長さ44 mmのTm(4%), Ho(0.4%):YLF結晶を用いて、3個の励起モジュールによりレーザロッドを3方向から側面励起する構造になっている。各励起モジュールは、レーザロッドの長さ方向に並べて配置された4個の半導体レーザ(LD)と石英の導光板から構成されている。励起光が通る部分以外のレーザロッド側面の大部分は、インジウム薄膜をバッファとして、銅製のヒートシンクに接触しており、それによって伝導冷却で高い排熱効率を実現している。ヒートシンク温度は、冷凍機を用いて-80℃に冷却されている。Tm,Ho:YLFレーザは、準四準位レーザである[12]。そのため、レーザ下準位は、ボルツマン分布にしたがって熱的に占有されている。温度上昇に伴い、下準位を占有するイオンは増加し、再吸収は大きくなり発振効率は低下する。従来のレーザモジュールは、高い排熱能力を有する一方で、励起密度が低すぎるために再吸収の影響が大きく発振閾値が高いという問題があった。再吸収に打ち勝つためには、レーザロッド長さを短くして高密度励起することにより、反転分布密度を増やすことが有効である。ただし、過度の高密度励起は、Ho基底準位イオンの枯渇(Ground state depletion: GSD)による発振効率の低下を引き起こす。そのため、基礎実験並びに動作解析に基づいて、高密度励起レーザモジュールの開発を実施した。開発した高密度励起レーザモジュールには、直径4 mm、長さ33 mmの Tm(4%)、Ho(0.4%):YLFまたは直径4 mm、長さ22 mmの Tm(4%)、Ho(0.7%):YLFの結晶をレーザ媒質として用いている。それぞれ、従来のレーザモジュールよりも高温での高パルスエネルギー動作に秀でており、特に前者は22 mmのモジュールと比べて排熱面積を多く取ることができるため高繰り返し動作に適している。図3にレーザロッド長33mmの高密度励起レーザモジュールを示す。高密度励起レーザモジュールを用いて Q スイッチ発振実験を行った。レーザロッドの冷却温度は従来通図3 高密度励起型Tm,Ho:YLFレーザモジュール1194-6 光リモートセンシングのためのアイセーフ赤外パルスレーザ開発

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