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間を要していた。しかしながら、リアルタイムデータ利用を想定すると、実際の様々な観測データの品質管理を10秒以内に処理する必要がある。実際、地表面クラッタの除去では外部データを用いて計算処理に時間をかけることで精度は向上するが、計算時間と精度のトレードオフとなる。また実観測データには、予測できないノイズ等の混入や様々なタイプの降雨エコーが観測されるため、データ品質管理の精度を保つことは容易ではない。本研究で開発したPAWRの品質管理情報は、汎用的な目的で利用できるように1-byte(8-bit)の品質管理(QC)フラグとして提供される。QCフラグは、(0)Valid data,(1)Shadow,(2)Clutter possible,(3)Clutter certain,(4)noise,(5)Rain Attn,(6)Range SL,(7)Reserve,とした。(0)は反射強度(Ze)とドップラー速度(Vr)ともに有効データであれば真、(1)の地形によるシャドーは、国土地理院の標高データと4/3Rの等価地球半径を仮定したビーム高度の比較で判定する。(2)は統計クラッタマップの出現頻度の情報で、その範囲でVrの絶対値とZeのTexture情報を用いて、(3)のクラッタを判断している。(4)のノイズは現状では電波干渉等によりレンジ方向に混入する不要エコーの除去のみを対象としている。(5)の降雨減衰は代表的なK-Z関係を仮定した経路積分減衰量(PIA)で、大きな減衰領域の判別を行っている。図3は仰角2.0°のPPIでZe分布とQCフラグ出力結果を示す。対流性及び層状性降雨が地表面クラッタと重なる場所に観測された例では、いずれも降雨エコーと思われる領域でのQCフラグはClutter possible(黄色)となっており、統計的にはクラッタ発生領域であるがこの事例では降水という正しい判断となっている。電波干渉が発生した時の事例(晴天時)ではノイズが適切に判別されており、ほぼ全てのClutter possible領域でClutter certain(橙色)と判別されている。いずれの事例でも、地形によるShadow(緑色)は西北西~北方向に広がっており、西側のシャドーは大阪大学内の建物によるシャドーである。図4は強エコーの前後にしばしば現れるレンジサイドローブ(RSL)による疑似エコーの例である。パルス圧縮された長パルス領域では、強エコーの前後±10.8km (低仰角の場合)の範囲に対称的なRSLを生じることがある。このRSLは、通常は送信パルス波形を整形することで低減できるが現状の送信ユニットでは修正が困難であり、50dBZを超えるような孤立した強いエコーの前後には実エコーより20~30dB弱い疑似エコーが現れることが多い。この疑似エコーを除去するため、レンジ方向と方位角方向に別々に計算したZeのテクスチャを利用した。判別方法は、まずレンジ方向±10.8kmの範囲におけるZe最大値を求め、それがしきい値(45dBZ)を超えた場合にその範囲でレンジ方向テクスチャと方位角方向テクスチャの値がしきい値(1.5、0.8)以下であることを確認する。最後にZe最大値との差が一定値(20 dBZ)より小さければRSLエコーと判別する。判定結果を図4下段に示すが、おおむね正しく疑似エコーを判別できていると考えられる。ただし、一部で仰角によって判定が異なり不完全な判別結果となっている場所やRSL領域の中に正常データが含まれる場合がある。このQCフラグ作成プログラムは、最終的にシングルコアによる計算では10秒を超えてしまったが、8コアを用いた並列計算を行うことで実行時間を10秒未満に押さえることができており、定常的にリアルタイム処理を行うことで後述する3次元降水ナウキャス図3仰角2.0°のPPIにおける反射強度分布(上段)とQCフラグ(下段)の出力例。(a),(d)対流性降雨時、(b),(e)層状性降雨時、(c),(f)晴天時の電波干渉発生時の例を示す。QCフラグは、青がValid(≧1)、緑がShadow(≧2)、黄と橙がClutter Possible及びCertain(≧4,≧8)、赤がInterference Noise(≧16)、紫がRange Sidelobe(≧32)を示す。(b)(c) VTbFd >1ShTdow >2Cbuttr mTp >4Cbuttr crtTFn >8Intrfrnc noFs >162015/12/18,10:40:34 JST2015/08/08,16:00:21JSTConvective RainInterference Noise(fine weather)(a)2015/07/17,08:30:19 JSTStratiform Rain(e)(f) (d)図4レンジサイドローブ疑似エコーの例。(a) 仰角3.9°のPPI及び (b) 方位角33.6°のRHIの反射強度(図aの矢印間の鉛直断面)。赤丸で囲まれたエコーがレンジサイドローブと考えられる。(c) (d) PPI及びRHIに対応するQCフラグ。EL=39di(T)AZ=336di(a)2016/08/14, 14:50:16HEIGHT (km)RANGE (km)(c)(d)HEIGHT (km)RANGE (km)EL=39diAZ=336di2016/08/14, 14:50:16dBZ12   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測

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