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トでも利用されている。データQCの精度は最終的な予測精度を左右するが、限られた計算処理時間内で様々な観測データに対応できるQC処理は容易ではなく、多くの事例を用いて検証を行うとともにリアルタイム運用の結果も評価しながら課題を解決していくことが重要となる。リアルタイム観測データの利用4.1理研天気予報研究2018年時点では、CRESTのビッグデータ同化実験では100m分解能、30秒更新、30分先までの予測を30秒以内に実現することはできなかった。250m分解能にすれば30秒以内で計算可能であるが、京コンピュータの多くのノードを占有する必要があり、常時運用することは実質的に不可能である。そこで、30秒ごとのPAWR観測データを有効利用した短時間の天気予報を目指して、Otsuka et al.(2016)が3次元降水ナウキャストの手法を開発した[6]。この手法はスーパーコンピュータを使わなくても一般的なマルチプロセッシング計算機でリアルタイム運用できるものであり、従来の2次元水平分布データを用いたナウキャストに比べると積乱雲内の降水コアの成長や落下など[7]を追跡できるため、予測精度が良くなっている。図5は、Webページで公開されている理研天気予報研究のページである(https://weather.riken.jp)。ここでは、吹田あるいは神戸PAWRのデータを用いて250mメッシュで10分先までの降水予報を行い、理研が気象予報業務許可を取得して、気象予報士が常駐する平日10時から17時の間のみ予報結果を表示している。4.2スマホアプリ「3D雨雲ウォッチ」吹田PAWRの試験観測中(2012年7月26日)に発生した京田辺市付近のゲリラ豪雨の事例を3次元可視化して30秒ごとのアニメーションとして表示した結果は[1] [8]、専門家のみならずマスコミを通じて一般の人からも大きな反響を呼んだ。その3次元アニメーションを展示会で紹介したことがきっかけとなり、株式会社エムティーアイとNICTの共同研究契約「フェーズドアレイ気象レーダーによる豪雨予報に関するモバイルコンテンツ開発」が始まった。PAWRの30秒ごとのリアルタイム観測データを利用した無料のスマホアプリ「3D雨雲ウォッチ」は、わずか3か月程度の短期間で開発を行い2015年7月21日から実証実験を開始した[9]。その後、ユーザの声を聞きながら毎年改修を行い、2018年には20万ダウンロードを超えた。2018年までに吹田、神戸のPAWRに加えて、日本無線株式会社の千葉PAWRデータも加えるとともに、気象庁Cバンドレーダーデータ(10分更新)を用いることで利用エリアを全国に拡大した。また、関西域では前述の理研による3次元降水ナウキャストの結果も取り入れて、10分先予報の結果も配信している。図6は2018年版の「3D雨雲ウォッチ」の観測データ表示画面である。図6(右)のプッシュ通知は豪雨の可能性をユーザに通知するものであり、基本的には鉛直積算雨水量(VIL)を用いたロジックを基にして豪雨の可能性を判定している。まとめ吹田、神戸、沖縄のPAWR観測データを小金井にリアルタイム転送するデータ利用システムを開発した。131Mbpsで生成されるビッグデータを遅延なく転送45図5理研天気予報研究、関西の降水予報のWebページ(https://weather.riken.jp)。吹田または神戸PAWRの観測データをNICT本部(小金井)から神戸の理研にリアルタイム転送して、3Dナウキャストによる30秒更新、10分予報を行っている。(理研提供)図6スマホアプリ「3D雨雲ウォッチ」によるフェーズドアレイ気象レーダーの観測データ表示。(左)真上から視点による水平降雨分布、(中)3次元降雨分布、(右)PUSH通知の例(エムティーアイ提供)。雨雲レーダ−2D画面雨雲レーダ−3D画面PUSH通知132-2 フェーズドアレイ気象レーダーのリアルタイム観測データの利用

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