地デジを用いた観測が妥当な気象観測となっていることを示している。図4(b)及び(c)は地デジにより得られた伝搬遅延から、NICTの地上気温・気圧を用いて換算した湿度及び水蒸気量変化である。23日の13時30分頃や24日の16時30分頃に伝搬遅延や水蒸気量がステップ状に増加しているが、NICT本部(小金井)で連続観測しているウィンドプロファイラレーダー(WPR)によるとこの時間に風向が南よりに変化しており、それに伴って湿った空気が浸入してきたことに対応していると考えられる。観測展開状況埼玉大学で運用されている最新の気象レーダーMP-PAWRの観測範囲と重なるように、反射法を用いた地デジ波による水蒸気量観測網の展開を進めている。図5に示すのは現在の展開状況である(2019年5月現在8地点)。基本的には東京スカイツリーからの地デジ放送波を利用するが、観測点によってはテレビ埼玉、テレビ神奈川、千葉テレビなどの東京スカイツリーと異なる電波塔からの地デジ放送波も受信可能なため、これらの場所では1地点のみの測定で複数の基線を用いた観測が可能になる。現在、多地点展開で面的に水蒸気量変動を把握し、そのデータを気象予報に用いた場合の効果の検証を行っているところである。防災・減災を目指して現在の気象予報は、計算機上で様々な物理過程を取り入れた数値予報モデルを用いて時間発展を計算することで行われている。数値予報モデルを実際の状況に近付けるためになるべく多くの観測データを数値予報モデルへ取り込む(データ同化する)ことが望ましい。本手法で観測された水蒸気量もデータ同化に用いて、数値予報モデルの予測精度向上につなげることを目指している。現在地デジ観測のデータ同化実験を進めており、一地点の観測値を用いるだけでも降雨予測精度の改善が見られることが分かってきている。ゲリラ豪雨などの局所的な現象では地表面付近の水蒸気の振る舞いが重要と言われているが、本手法の観測対象は正にその地表面付近の水蒸気量である。本手法では高さ方向の情報は得られないため、鉛直方向に水蒸気量を測定するGPS可降水量やマイクロ波放射計、水蒸気ライダーなどと合わせて気象予測の精度向上に寄与したいと考えている。防災・減災への対応には、少なくとも20分以上のリードタイムを取った予測が必要と言われる。今後多地点観測のデータ同化を進め、20分から数時間先のゲリラ豪雨等の予測精度向上を目指したい。おわりに本手法は地デジ放送波を受信するだけでよい(送信は不要な)ため、無線局免許等が不要で、装置も比較的小型・安価に製作できる。受信装置としてアンテナやブースターなど安価な汎用品が利用できることも地デジ特有のメリットである。今後は、データ同化実験などを踏まえながらさらに観測地点を増やしていく予定である。現在用いている反射法では反射体に依存する部分が大きく観測配置の制約が大きいが、図1(a)に示す同期法が確立すれば、爆発的に観測地点数を増やすことも可能である。現在装置の小型・低消費電力化を目指し、図2に示した観測システム(プロトタイプ)のソフトウェア処理(PCとUSRP-N210の部分)をFPGAに置き換えた汎用モデルの開発も進めている。本手法のように既存の電波を副次利用する技術は、電波資源の有効利用でもある。既存電波の散乱を利用したパッシブレーダーの開発なども視野に入れて研究開発を進めていきたい。謝辞本研究の一部は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(2)豪雨・竜巻予測技術の研究開発「マルチパラメータフェーズドアレイレーダ等の開発・活用による豪雨・竜巻予測情報の高度化と利活用に関する研究」、SIP2(戦略的イノベーション創造プログラム第2期)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」Ⅴ.線状降水帯観測・予測システム開発「線状降水帯の早期発生及び発達予測情報の高度化と利活用に関する研究」、科研費「水蒸気稠密観測システムの構築による首都圏シビアストームの機構解明」、及び科研費「ストームジェネシスをとらえるための先端フィールド観測と豪雨災害軽減に向けた総合研究」によってサポートされている。【参考文献【1S. Kawamura, et al., Water vapor estimation using digital terrestrial broadcasting waves, Radio Sci., 52, 2017. doi:10.1002/2016RS006191.56718 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測
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