HTML5 Webook
27/134

サブテーマ1:発生予測近年、対流圏下層の水蒸気に特化した様々な水蒸気観測手法が提案されていることから、下層の水蒸気量の予測改善による、数値予測の改善と線状降水帯の発生可能性指標(以降、線状降水帯インデックス)の高度化を行う。具体的には、従来のゾンデや地上設置型GNSS観測に対して、対流圏下層の水蒸気観測に効果的な新しい観測手法が提案されている。鉛直分布を高時間分解能で測定する水蒸気ライダー、低コストで水平分布を測定する地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測(以下、地デジ水蒸気観測)[1]、高度1km以下の水蒸気を極めて高い時間分解能で推定する地上設置型マイクロ波放射計がある。こうした地上設置型水蒸気観測網を線状降水帯が頻繁に発生する九州に設置し、福岡大学、防災科学技術研究所(以下、防災科研)、情報通信研究機構(以下、NICT)及び日本気象協会が、気象庁気象研究所(以下、気象研)の協力を受けて、連続観測を実施する計画である。水蒸気観測データを「線状降水帯インデックスの予測精度検証」を行う研究グループ(日本気象協会)に提供し、線状降水帯インデックスの高度化を図る。また、リアルタイムで取得した観測データを、線状降水帯発達予測技術開発を行っている防災科研が受け取り、線状降水帯の発達予測精度向上を図る。こうした地上設置型水蒸気観測測器の現業機関での実装を検討するための測器間の精度及び運用コストの比較を行う。地上設置型の水蒸気観測は数時間前からの線状降水帯発達予測に大きく貢献する一方、半日前における線状降水帯発生予測への貢献は限定的だと考えられる。十分なリードタイムを確保するためにも、海上の水蒸気量をとらえることが可能な航空機観測が必須である。線状降水帯の予測を12時間前から行うことを目標として、海洋上の水蒸気、気温、気圧、風向・風速を航空機からのドロップゾンデ観測を可能とする航空機観測システムを名古屋大学が開発する。サブテーマ2:被害推定線状降水帯等による甚大な水災害に対する注意喚起は、過去の災害と雨量により算出している指数との対比を通じて定めた基準に基づく、大雨警報等の防災気象情報の発表によって行われている。気象庁は1991年以降の格子解像度5kmの雨量データを解析し、3時間と48時間の積算雨量に対して、「50年に一度の雨量」を市町村ごとに資料発表している。この統計情報をデジタル化し地図情報と重ね、リアルタイムで現況と予測雨量から「50年に一度の雨量」に達するまでの雨量余裕度を動的に示すと同時に雨量に関連付けられた過去の水災害情報を提供する。こうした情報は、災害発生までの猶予時間だけでなく、日没時刻、避難所開設や避難行動等に要する時間を考慮した「日中避難限界時刻」までの猶予時間とともに提供することで、自治体に切迫感をもった情報として提供することを可能にする。具体的には、1991年から2005年までの気象庁解析雨量は、現在の格子解像度1kmの分解能よりも粗い空間分解(5kmや2.5km)で配信されており、統計的ダウンスケール法を用いた高詳細化技術を日本気象協会が開発し、格子解像度1kmのメッシュデータを作成する。作成された数十年間の降雨情報を用いて線状降水帯を自動的に検出及び追跡する技術を防災科研が開発し、線状降水帯に関する雨量とその環境場の統計情報を作成する。また、防災科研が整備した「水害統計GISデータ全国版」を用いて1961年から2009年までの全国市町村ごとの水害情報と降雨統計情報を関連付けた線状降水帯データベースを構築し、現在の降雨情報から類似した過去の雨量情報を検索し、過去の災害情報を抽出する機能を付加する。サブテーマ3:発達予測線状降水帯の学術的定義は確立していないが、我が国で初めて行われた線状降水帯の統計的調査では、3時間積算雨量の線状分布を解析対象としている。このことから少なくとも数時間程度大雨が継続することが大規模水害の発生の必要条件と考えられる。そのため、線状降水帯の現況を監視しながら、線状降水帯の形成期から数時間先までの発達予測技術を確立することで、その予測情報を有効的に活用する方法について自治体や防災関連事業者とともに実証実験の中で検討する計画である。具体的には、NICTが中心となり、SIP第1期の「豪雨・竜巻予測技術開発」で開発したマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)[2]、フェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)[3]や、NICTがこれまで開発した各種地上レーダーなど首都圏最新気象観測ネットワークを用いた、急激に発達する積乱雲の現況監視技術と1時間先までの予測技術を活用した、線状降水帯等の発達予測を可能とする、数時間先までの短時間予測技術の高度化を図る。NICTの役割NICTは、サブテーマ3:発達予測を中心に、サブテーマ1:発生予測の九州地方で計画している地上設置型水蒸気観測網の地デジ観測に関して実施する。ここでは、主にサブテーマ3として実施する(1)最新気象データを用いた発達予測技術開発、(2)発達予測技術の首都圏実証実験について述べる。3.1最新気象データを用いた発達予測技術開発MP-PAWR等の首都圏最新気象観測ネットワーク3232-4 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」Ⅴ.線状降水帯の早期発生及び発達予測情報の高度化と利活用に関する研究

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る