ためには、分解能に優れる観測手段が必要である。しかし、現在のWPRが持つ測定性能には限界がある。現在のWPRにおける鉛直分解能は100~数100m、時間分解能は最高で1分程度である。これらの分解能では、積雲対流・大気境界層内のサーマル・大気不安定等による小スケールの風の流れ(風速)や乱れ(乱流)を十分に観測できない。また、WPRには、大気エコー以外の非所望エコー(クラッタ)が受信信号に混入することで、風速等の測定データ品質が低下する問題がある。クラッタは受信アンテナビームのサイドローブからも混入するため、地表に固定された樹木や建物、地表を走行する車両(車や電車)、海面及び船舶、航空機・鳥・虫などの地上・海上・空中に存在する様々な対象がクラッタ源となりうる。多様な特性を持つクラッタを効果的に低減し、測定データ品質を向上させることは、WPRにおける長年の課題である。次世代WPRは、局地的な気象現象が引き起こす小スケールの風速や乱流を十分に把握できる観測分解能(最高で数10 mの鉛直分解能と10秒以下の時間分解能)の達成を目指している。さらに、多様な特性を持つクラッタを効果的に低減することにより、局地的かつ短時間で変化する気象状態の把握と予測に寄与できる風速等の測定データ品質を実現することを目指している。本報告では、次世代WPRの研究開発における目標、開発状況、及び今後の展開を述べる。次世代ウィンドプロファイラ(WPR)2.1次世代WPRの開発目標と開発方針次世代WPRの開発目標と開発方針は、以下の通りである。観測分解能の向上局地的な気象現象が引き起こす小スケールの風速や乱れを十分に把握できる観測分解能(最高で数10mの鉛直分解能と10秒以下の時間分解能)を達成する。目標とする観測分解能を達成する手段として、レーダーイメージングを用いる。レーダーイメージングには、周波数を送信毎に切り替えることでレンジ(鉛直)分解能を向上させるレンジイメージング(Range Imaging:RIM)と、サブアレイアンテナ(以下、サブアレイと表記)を用いた多チャンネル受信を行うことで、角度分解能を向上させるコヒーレントレーダーイメージング(Coherent Radar Imaging:CRI)がある[6]。測定データ品質の向上多様な特性を持つクラッタを効果的に低減することで、局地的かつ短時間で変化する気象状態の把握と予測に寄与できる風速等の測定データ品質を実現する。目標とする測定データ品質を実現する手段として、サブアレイを用いて受信アンテナのビームパターンを動的に制御することでクラッタを低減するアダプティブクラッタ抑圧(Adaptive Clutter Suppression:ACS)[6]を用いる。既設WPRの活用既設のWPRを開発プラットフォームとして使用することで、次世代WPRの技術開発に要する費用を削減する。次世代WPRを社会に広く利用するためには、既設WPRのハードウェアを極力活用することで設置に要する費用を下げることが望ましい。既設WPRの改修により、次世代WPRに要求される機能と性能を実現することを目指した研究開発を実施する。ソフトウェア無線(SDR)技術を用いたデジタル受信機の開発ソフトウェア無線(Software-Defined Radio:SDR)技術を用いたデジタル受信機を開発することで、次世代WPRの技術開発と性能検証を実現する。従来のWPRにおけるリアルタイムデジタル受信データ処理では、Field Programmable Gate Array(FPGA)やDigital Signal Processor(DSP)が使用されている。FPGAやDSPを用いることで、高速なリアルタイムデータ処理が実現できる。一方、これらの設計には専門技量が要求されるため、一旦実装した処理手順を容易に変更できない。近年のSDR技術の発展や汎用コンピュータの高速化により、汎用のソフトウェア無線用データ収集装置やワークステーションを用いた高速デジタル処理が可能となっている。さらに、SDR技術を用いることで、汎用プログラミング言語を用いた信号処理の開発が実現できる。そのため、SDR技術を用いることでデータ処理の実装・変更・拡張が容易(コンフィギュラブル)なデジタル受信機を開発できる。コンフィギュラブルなデジタル受信機は、次世代WPRに留まらず、将来開発される多様なセンサを迅速かつ柔軟に開発する手段となり得る。2.2次世代WPRの開発プラットフォーム次世代WPRの開発プラットフォームとして、NICTが有する既設の1.3GHz帯WPR(通称LQ-13)とデジタル受信機を使用する。LQ-13図1にLQ-13の外観を示す。LQ-13の中心周波数は1357.5 MHzである。LQ-13は13台のルネベルグレンズから構成されるフェーズド・アレイ・アンテナ228 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測
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