ングには、レンジ(鉛直)分解能を向上させるRIMと角度分解能を向上させるCRIがある。また、受信アンテナのビームパターンを動的に制御することでクラッタを抑圧するACSは、多様な特性を持つクラッタを効果的に低減できる技術である。本章では、RIM、OS、CRI及びACSの概要を述べる。3.1レンジイメージング(RIM)送信における周波数帯域幅を確保することでWPRのレンジ(鉛直)分解能を向上させる手段として、短パルス送信と周波数変調連続波(Frequency Modulat-ed Continuous Wave:FMCW)を用いた周波数変調パルス圧縮がある。また、送信パルスをサブパルスに分割し、それぞれのサブパルスに位相変調を行うことでレンジ(鉛直)分解能とエコー検出感度の両方を確保する位相変調パルス圧縮が広く用いられている。これらの従来手法では、入力(受信信号)の状態にかかわらず、受信信号の処理方法は同じである。これらの従来手法に対し、RIMは、受信信号の状態に応じた最適な出力を行う(入力に対してアダプティブな処理を行う)ことでレンジ分解能を向上させる新たな技術である。RIMでは、送信毎に送信周波数を切り替えることで、送信される周波数(周波数チャンネル)毎に受信信号を得る。同一のレンジにおいて、それぞれ異なる散乱波の位相が各周波数チャンネルで受信される。RIMは、周波数チャンネル間における散乱波の位相の違いを利用してレンジ分解能を向上させる。そのため、RIMは周波数領域干渉計(Frequency Do-main Interferometry:FDI)とも呼ばれる。図2にRIMの概要説明図を示す。RIMでは、適応信号処理(アダプティブ信号処理)を用いることで周波数チャンネル毎に得た受信信号の重み付け和を計算する。RIMは任意の測定レンジ(高度)において適用できる。所望のレンジ におけるRIMの入力には、 に最も近いサンプルレンジで取得された受信信号を用いる。所望のレンジに最も近いサンプルレンジで得られた受信信号() を、以下の式(1)で表す。()=()()() (1)ここで は時間、N は送信される周波数の数、 はi 番目の周波数チャンネルで得られた受信信号である。また、T は行列の転置を表す。RIMでは送信毎に周波数を切り替えるため、受信信号のサンプル時刻は最大で送信間隔のN−1 倍のずれがある。しかし、大気エコーの時間変動はサンプル時刻の差異より十分小さいため、同一の時刻 に受信信号がサンプルされたとみなせる。重み付き合成後の出力() は以下の式(2)で表される。()() (2)ここで は重み係数ベクトル の複素転置である。 を決定するために使用する適応信号処理は、Capon法[8]に基づいている。RIMにおけるCapon法では、所望の高度における受信信号を同位相とし、さらに所望の高度における利得を一定とする拘束条件のもと、出力における非所望レンジからの信号寄与が最小となるよう受信信号を重み付け合成する[6][9][10]。非所望信号の除去を主目的とする(観測分解能の向上が主目的ではない)場合は、この適応信号処理の方法は方向拘束付き電力最小化法(Directionally Constrained Minimization of Power:DCMP)とも呼ばれる。RIMにおける輝度 は以下の式(3)で表される。 (3)ここで は周波数がそれぞれ異なる受信信号の間で計算された共分散行列である。i 番目の行・j 番目の列における の要素 は、以下の式(4)で表される。∗ (4)ここでN は計算に用いる受信信号時系列の数であり、 が最初のサンプル時刻、 が最後のサンプル時刻となる。拘束条件は以下の式(5)で表される。 (5) は におけるステアリングベクトルであり、以下の式(6)で表される。1N (6)ここで はi 番目の波数である。 はWPRのハードウェアにより決定される初期位相である。RIMでは、任意の1つの周波数(m 番目の周波数とする)を基準とした と の位相差− を式(6)に示す の代わりに使用しても、同じ結果を得ることができる。− は、 と の位相差から近似的に求めることができる。図3に、周波数チャンネルが異なる受信信号の相互相関から得た位相差の測定例を示す。図3に示す位相差では、異なる2つの周波数チャンネルから得られた受信信号のそれぞれに対し、レン30 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測
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