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現在の開発状況4.1SDR技術を用いたデジタル受信機の開発既設のWPRにOSと多チャンネル受信の機能を付加することを目的としたデジタル受信機の開発に取り組んでいる。図6に、現在LQ-13に付加されているデジタル受信機の構成及び機能の説明図を示す。デジタル受信機は4台のソフトウェア無線用データ収集装置(Ettus Research社製USRP X310[25])とワークステーション(Workstation:以下WS)で構成されている。USRP X310はホストへのデータ転送用インタフェースとして高速データ通信が可能な10ギガビットイーサネットを有しているため、次世代WPRに要求されるOS機能を実現できる。USRP X310ではLQ-13の主アンテナ及び5台のクラッタ抑圧用サブアレイからのIF受信信号のそれぞれに対し、アナログ―デジタル変換回路(Analog-to-Digital Converter:以下ADC)を用いたデジタル化とデジタル直交検波を行う。主アンテナからの受信信号のIFは15 MHz、クラッタ抑圧用サブアレイからの受信信号のIFは130 MHzである。デジタル直交検波後の複素受信信号は、10ギガビットイーサネットを通じてWSに伝送される。WSへの転送レートは10メガサンプル毎秒(Megasamples per second:MS s-1)である。WSでは測距(レンジング)・レンジ方向のフィルタリング・位相変調パルス圧縮された受信信号の復号処理・時間積分・ハードディスクへのデータ保存を行う。WSのオペレーティングシステムはUbuntuである。WSでは、USRP X310からのデータ取得及びレンジングを実施するスレッド(Data Taking Thread)とレンジングより後段のリアルタイムデジタル受信データ処理を実施するスレッド(Signal Processing Thread)を用いることで、USRP X310からのデータ取得とリアルタイムデジタル受信データ処理を同時に実行する。Data Taking Threadにおいてレンジングを行った受信信号データは、共有メモリ(Shared Memory)を介してSignal Processing Threadに渡される。共有メモリはダブルバッファ構成とし、片方のバッファではData Taking Threadからのデータ書き込みを、もう片方のバッファではSignal Processing Threadからのデータ読み込みを行うことで、Data Taking ThreadとSignal Processing Threadとの間におけるデータ競合の発生を防いでいる。USRP X310は、ADCを搭載したデジタルボードでは一般的である、トリガ信号の入力を基に定められたデータ量のみをサンプリングする機能がない(つまり、常に入力データのサンプリングとホストへのデータ転送が行われる)。そのため、WSでレンジングを行っている。レンジングに必要となる受信開始用トリガ信号(Trigger)はLQ-13本体からUSRPに入力され、さらにWSに伝送されている。多チャンネルの受信信号を並列処理するため、Signal Processing Threadは、主アンテナ(Main Antenna)及び5台のクラッタ抑圧用サブアレイ(Subarray)からの受信信号のそれぞれに対して(計6つが)実行される。また、Signal Processing ThreadにおいてOpenMP[26]を用いたループ処理の並列化を行うことで、処理速度を向上させている。汎用プログラミング言語であるC++を用いて、リアルタイムデジタル受信データ処理用プログラムを開発している。また、USRP X310に対する測定パラメータ(受信信号の中心周波数・USRPX310からWSへのデータ転送レートなど)の設定やサンプリング開始などの制御には、Ettus Research社が提供するUniversal Hardware Driver(UHD)[27]を使用している。UHDはC++から利用できる。UHDを使用することで、専門技量を要するFPGAの回路設計を行うことなく、USRP X310上でデジタル直交検波を行える。C++で記述されたソースコードは可読性と可用性が高いため、リアルタイムデジタル受信データ処理の内容を容易に変更あるいは追加できる。さらに、受信周波数の変更や受信チャンネル数の変更も容易である。これらの点で、開発したデジタル受信機はコンフィギュラブルである。開発したデジタル受信機は、WPR本体と周波数を同期するための10 MHz参照信号、USRP間のデータ転送タイミングを同期させるための毎秒パルス(1 Pulse Per Second:1 PPS)信号、WPR本体の送信あるいは受信開始を知るためのトリガ信号、及び主アンテナからのIF受信信号を供給することで、既設のWPRに接続することができる。LQ-13では、USRP X310とLQ-13本体の周波数を同期させるため、LQ-13本体の構成品である全地球測位システム(Global Positioning SystemまたはGlobal Positioning Satellite:以下GPS)受信機から出力される10 MHz参照信号をそれぞれのUSRP X310に入力している。また、USRP X310間のデータ転送タイミングを同期させるため、同じGPS受信機から出力される1 PPS信号をそれぞれのUSRP X310に入力している。送信あるいは受信開始を知るためのトリガ信号の入力にあたっては、USRP X310の持つ入力端子のインピーダンスが50 Ωであることに注意する必要がある。異なるWPR間におけるトリガ信号やリアルタイムデジタル受信データ処理における差異は、WSにおける処理内容の変更により対応することが期待できる。4352-5 次世代ウィンドプロファイラの研究開発

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