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とともに、既設WPRへの実証実験機材の接続方法の検討を進めた。2017年11月に、ISO/TC 146/SC 5/WG 8 “Radar wind profiler"によるWPRのISO規格策定が開始された。ISO/TC 146/SC 5/WG 8によるWPRのISO規格策定において日本からの提案を行うことを目的とした、国内審議委員会が設置されている。国内審議委員会は、WPRに関連する官公庁・企業・研究機関に所属するメンバーで構成されている。NICTの職員が、国内審議委員会の委員及びISO/TC 146/SC 5/WG 8のExpert(日本代表)として、WPRのISO規格策定に参加している。NICTでは、次世代WPRの研究開発成果とWPRの運用・保守の経験・ノウハウを生かし、さらに国内審議委員会のメンバーと連携することで、WPRの設計・製造・保守における品質を確保するとともに、WPRの最新技術が反映されたISO規格の策定を目指している。今後の展開次世代WPRは、局地的な気象現象が引き起こす小スケールの風速や乱流を十分に把握できる観測分解能(最高で数10 mの鉛直分解能と10秒以下の時間分解能)の達成を目指している。また、多様な特性を持つクラッタを効果的に低減することにより、局地的かつ短時間で変化する気象状態の把握と予測に寄与できる風速等の測定データ品質を実現することを目指している。次世代WPRでは、多周波切替え送信によりレンジ(鉛直)分解能を向上させるRIM、レンジ重み付け効果の低減によりRIMの性能を向上させるOS、サブアレイを用いることで角度分解能を向上させるCRI、サブアレイを用いて受信アンテナのビームパターンを動的に制御することでクラッタを抑圧するACSを用いて、次世代WPRに要求される観測分解能と測定データ品質を実現する。これまでに、ソフトウェア無線技術を用いたデジタル受信機と、既設のWPRに付加できるACSシステムを開発した。NICTが主体となって取り組む次世代WPRの研究開発に加え、ACSの実用化を目指した高度通信・放送研究開発委託研究や、WPRの標準化を目的としたISO規格の策定も進められている。今後も次世代WPRに関する技術開発を進めるとともに、さらにLQ-13等を用いた観測実験に取り組むことで、次世代WPRで達成できる観測分解能と測定データ品質を実証していきたい。また、次世代WPRを用いた乱気流発生の早期検出による航空機の安全な運行の実現や、積乱雲発達の早期探知によるゲリラ豪雨予測への貢献など、安心・安全な社会に貢献するアプリケーション創出に取り組んでいきたい。次世代WPRの開発成果を、気象レーダーをはじめとする他のリモートセンシング機器の技術開発と性能向上に展開することにも注力したい。風速を観測するWPRと、降水を観測する気象レーダー・雲を観測する雲レーダー・エアロゾルや水蒸気を観測するライダー・風速の3次元分布を観測するドップラーライダー等を併用したマルチセンサ観測は、大気中の力学過程や雲物理過程の解明に加え、局地的な気象現象の把握と予測に大きく貢献し得る手段でもある。次世代WPRの開発成果を、マルチセンサ観測の推進にも生かしていきたい。謝辞本研究開発の一部は、科研費基盤研究B(課題番号26281008)、科研費挑戦的萌芽研究(課題番号16K12861)、及び科研費基盤研究S(課題番号15H05765)による助成を受けている。また、本研究開発の一部は、NICTの高度通信・放送研究開発委託研究(課題名:次世代ウィンドプロファイラの実用化に向けた研究開発・採択番号19801)において実施されている。【参考文献【1W. K. Hocking, “A review of Mesosphere-Stratosphere-Troposphere (MST) radar developments and studies, circa 1997-2008,” Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, vol.73, no.9, pp.848–882, June 2011. DOI:10.1016/j.jastp.2010.12.009.2気象庁, ウィンドプロファイラ, https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/windpro/kaisetsu.html. アクセス日:2019年3月22日.3M. Ishihara, Y. Kato, T. Abo, K. Kobayashi, and Y. Izumikawa, “Char-acteristics and performance of the operational wind profiler network of the Japan Meteorological Agency,” Journal of the Meteorological Soci-ety of Japan, vol.84, no.6, pp.1085–1096, Jan. 2007. DOI:10.2151/jmsj.84.1085.4V. Lehmann, et al., “Overview on wind profiler networks worldwide and review of impact results,” 6th Workshop on the Impact of Various Observing Systems on NWP, Shanghai, China, 10-13 May 2016. https://www.wmo.int/pages/prog/www/WIGOS-WIS/reports/6NWP_Shanghai2016/WMO6-Impact-workshop_Shanghai-May2016.html より入手可能。5国土交通省交通政策審議会気象分科会, 「新たなステージ」に対応した防災気象情報と観測・予測技術のあり方(提言), 2015年7月. http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kishou00_sg_000058.html6M. K. Yamamoto, “New observations by wind profiling radars,” in Doppler Radar Observations - Weather Radar, Wind Profiler, Ionospheric Radar, and Other Advanced Applications, Edited by J. Bech and J. L. Chau, pp.247–270, InTech, Rijeka, Croatia, April 2012. DOI:10.5772/37140.7今井克之, 中川貴央, 橋口浩之, 電波レンズ搭載型対流圏ウィンドプロファイラレーダー(WPR LQ-7)の開発, SEIテクニカルレビュー, 170号, pp.49–53, 2007年1月. https://sei.co.jp/technology/tr/pdf/sei10497.pdf より入手可能。8J. Capon, “High-resolution frequency-wavenumber spectrum analysis,” Proceedings of the IEEE, vol.57, no.8, pp.1408–1418, Aug. 1969. DOI:10.1109/PROC.1969.7278.9R. D. Palmer, T.-Y. Yu, and P. B. Chilson, “Range imaging using frequency diversity,” Radio Science, vol.34, no.6, pp.1485–1496, Nov. 1999. DOI:10.1029/1999RS900089.640   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測

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