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PANDA図1に示すようにPANDAはPAWRとドップラーライダーに加え、その場の気象要素(気温、相対湿度、気圧、風向及び風速)を計測するセンサ群を同じ鉄塔に設置した構成になっている。PAWRは地上高20 mのレドーム内に設置されている。128本の導波管スロットアンテナで構成される2 m四方の平面アンテナを用い、仰角方向には送受信ビームを電子的に走査し、仰角0度から90度までを瞬時に観測することができる。この平面アンテナを方位角方向に機械的に走査することにより、通常30秒間隔で半径60 km以内のドップラー速度やレーダー反射強度をレンジ分解能100 m、方位角分解能1.2度で計測することができる。ドップラーライダーはLeosphere社製のWindcube 400S [11]であり、地上高17 mに設置されている。波長1.54 µmの目に安全なパルス状のレーザ光を大気中に照射し、受信光(散乱光)から光ヘテロダイン検波により視線方向のドップラーシフトを検出するコヒーレント方式のドップラーライダーである。平均出力1.5 W、パルス幅400 ns、観測可能ドップラー速度±30 m/sである。パルス繰り返し周波数は20 kHzと10 kHzを選択可能で、それぞれ距離分解能75/100 mと150/200 m、最大観測距離7.2 kmと14.4 kmに対応する。レーザ光の射出方向を低仰角で固定し、水平方向に走査(plan position indicator:PPI)することにより、ドップラー速度の水平分布を計測することができる。また、方位角を固定し、仰角方向にレーザ光を走査(range height indicator)することにより、気流の鉛直構造をとらえることができる。PANDAによるメソスケール気象現象の観測結果本章では沖縄で発生した海上竜巻とダウンバーストに関するPANDAの観測結果を示す。3.1海上竜巻海上竜巻は海上で発生する竜巻(上昇気流を伴う高速の渦巻き)であり[12]、海面近傍で局地的な突風を発生させる。図1に示すように海上竜巻は積乱雲の雲底から漏斗状に垂れ下がる雲(漏斗雲)により可視化される場合がある。本節では2015年8月31日に沖縄本島中部の東シナ海海上で発生した海上竜巻に関するPANDAの観測結果を示す。この日は秋雨前線が日本列島の太平洋沿岸に停滞しており、広範囲で大気の状態が不安定であった。沖縄本島地方には南から湿潤な空気が流れ込み、昼から夕方にかけて沖縄本島中部の東シナ海海上で積乱雲が次々に発生・発達し、激しい対流性降水が継続した。1443 JST (Japan Standard Time)に漏斗雲により可視化された海上竜巻が確認された(図1)。この写真から推定される漏斗雲の直径は30 mである。海上竜巻はPAWRから西に約6 kmの位置で発生したため、PAWRの分解能(ビーム幅約1度)では海上竜巻本体の渦をとらえることができず、ドップラーライダーでのみ渦をとらえることができた(図2)。海上竜巻発生前(図2(a)–(c))に、北側の降水からの冷気外出流と南西よりの一般風との境界に時計回りの循環が形成された。時計回りの循環は北東方向に移動しながら拡大し、徐々に循環が強くなった。1438:00 JSTには、水平シア不安定により明瞭な時計回りの渦になり(図2(d))、1441:30 JSTまで渦の強度を維持しつつ東の方向に移動した(図2(e))。1443:00 JST以降は渦の強度が急激に減少した(図2(g),(h))。一方、PAWRにより海上竜巻の親雲である積乱雲内で時計回りの循環を伴う降水コアを検出した(図3)。ドップラーライダーで時計回りの循環が検出される前からPAWRにより高度1 kmに弱い方位角シア(同一レンジ内で2 km以上離れていないドップラー速度の局所極大と極小の差(ΔV))を検出した。図3のPAWRの方位角シアとドップラーライダーにより検出された海面近傍の循環の位置関係と時間変化から、海面近傍の循環と上空の積乱雲内の循環が重なり、海23図1沖縄のPANDAの外観及び2015年8月31日1443 JSTに撮影された海上竜巻44   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測

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