近年、我が国は、これまでにないタイプの気象災害に見舞われている。局地的大雨(いわゆる「ゲリラ豪雨」)や竜巻などの突発的な大気現象や、線状降水帯による長時間かつ集中的な豪雨によって各所で甚大な被害が引き起こされ、社会的に大きな問題となっている。この深刻な課題の解決において、「避難指示が発令されてから避難が完了するまでの時間を十分に確保できること」が極めて重要であり、その達成には、現在の気象の状態を可能な限り早期かつ正確に把握できる機能が求められる。一方、地球規模の自然変化に目を向けると、地球温暖化をはじめとした地球全体をひとつの系として進行する現象を把握して将来へ備えることが必要であり、グローバルな視点から大気環境等を正確にとらえることのできるシステムの構築が求められる。さらにこれらに加え、我が国は古くから地震・火山噴火等の発生にも見舞われており、災害発生時には、地表面の状況が発災前と比較してどう変化したかを一刻でも早く詳細に知ることで、その後の迅速な災害対応につなげることができる。これらの状況把握機能の実現には、電磁波を利用することが極めて効果的かつ効率的である。情報通信研究機構(以下、NICT)では、2016年度から開始した第4期中長期目標期間において、電磁波を利用した「リモートセンシング技術」の研究開発を実施しており、その内容は以下のとおりである。① ゲリラ豪雨・竜巻に代表される突発的大気現象の早期捕捉・発達メカニズムの解明に貢献する、風、水蒸気、降水等を高時間空間分解能で観測する技術の研究開発を行う。これらの技術を活用し、突発的大気現象の予測技術向上に必要な研究開発を行う。② 地震・火山噴火等の災害発生時の状況把握等に必要な技術として、航空機搭載合成開口レーダーについて、構造物や地表面の変化抽出等の状況を判読するために必要な技術の研究開発に取り組むとともに、観測データや技術の利活用を促進する。また、世界最高水準の画質(空間分解能等)の実現を目指した、レーダー機器の性能向上のための研究開発を進める。③ グローバルな気候・気象の監視や予測精度向上を目指し、地球規模での降水・雲・風等の大気環境の観測を実現するための衛星搭載型リモートセンシング技術及び得られたデータを利用した降水・雲等に関する物理量を推定する高度解析技術の研究開発を行う。また、大気環境観測を目的とした次世代の衛星観測計画を立案するための研究開発を行う。NICTは、その前身である郵政省通信総合研究所、さらには郵政省電波研究所の時代から、気象や気候を観測する様々なセンサを開発してきた。例えば、地上降雨レーダーは1970年初頭から、航空機搭載合成開口レーダーは1980年代から、衛星搭載降雨レーダーは1970年代からそれぞれ研究開発を開始し、得られた多くの成果は、実用面でも学術面でも大きなインパクトを社会に与えるとともに、現在実施中の研究開発にも受け継がれている。本特集号は、主として第4期中長期目標期間において実施している上記①から③の研究開発について、実施内容及び現時点までに得られた成果について詳細に記述したものである。①については2に、②については3に、③については4にそれぞれ掲載した。これらの研究活動は、主として電磁波研究所リモートセンシング研究室において進められている。本特集号が、リモートセンシング技術に関する研究開発や実務に従事される方々をはじめ、当該分野に少しでもご関心をお持ちの方々の参考になれば幸いである。本特集号で報告した様々な技術は、総務省や多くの企業、大学、その他の関係機関の方々のこれまでのご支援・ご協力がなければ形になり得なかったものである。本稿の場を借りて感謝を申し上げたい。平 和昌 (たいら かずまさ)電磁波研究所研究所長博士(工学)電波伝搬、電磁環境、通信方式1 緒言 リモートセンシング技術特集号について1Introduction to the Special Issue on Remote Sensing Technologies平 和昌Kazumasa TAIRA11 緒言 リモートセンシング技術特集号について
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