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が弱い(ΔVが小さい)原因の1つと考えられる。一方、海上竜巻の消滅前には全観測高度で傾きが更に増大しており、こちらは竜巻に関するこれまでの観測結果と一致する。3.2ダウンバーストダウンバーストは地上または海上付近で破壊的な風の吹き出し(外出流)を起こす強い下降流である[14]。積乱雲内での強い上昇気流により形成された雨滴や霰あられ・雹ひょうが上昇気流で支えきれなくなると落下し、その際、摩擦で大気を引きずり下ろすことにより下降気流が発生する。さらに、落下する雨滴や霰・雹の蒸発熱や昇華熱により熱を奪われた大気は周囲より重くなり、下降気流が強められ、地上付近にまで達した場合、強い外出流が発生する。外出流先端(ガストフロント)はウィンドシアを伴い、航空機墜落事故の原因になるため、空港にはダウンバーストの検知用のドップラーレーダーが設置されている。しかし、外出流に雨滴が含まれていない場合は通常のドップラーレーダーでダウンバーストを検知することは難しい。本節では2016年7月28日に沖縄本島中部の東シナ海海上で発生したダウンバーストに関するPANDAの観測結果を示す。この日、沖縄本島周辺は高気圧に覆われていたが、終日、小規模な積乱雲が発生していた。1605 JSTにPAWRから北北西に11 km、高度3 kmの位置でPAWRにより最初のレーダーエコーが検出された。その後、降水コアは急速に発達し(図4(a)、レーダー反射強度の最大値が6分間で40 dBZ増加)、高度3 kmから5 kmの位置にレーダー反射強度が50 dBZを超える降水コアが形成された(図4(b))。ここで、50 dBZの最高高度をcore top、50 dBZの最低高度をcore baseと定義する。降水コアはレーダー反射強度の最大値が70 dBZに達した1614:30 JSTに落下を始め、1617:00 JSTにcore baseが海面に達した。ドップラーライダーでは1618:00 JSTから北北西よりの背景風により南に移流しながら同心円状に拡大していくドップラー速度のパターンが観測された(図5(a))。PAWRでは海面近傍の降水コアが存在する領域でドップラー速度の発散パターンをとらえているが、ガストフロントでのドップラー速度は観測できていない(図5(b))。したがって、海面(地表面)近傍のガストフロントの時間・空間変動をとらえるにはドップラーライダーが有効である。一方、ダウンバーストの早期検知の観点からは、降水コアの落下をとらえることができるPAWRが有効である(図4)。このことから、ダウンバーストの早期検知とそれに伴うガストフロントの実況把握にはレーダーとライダーの融合観測が有効である。012345 (km)3040506070 (dBZ)1607160916111613161516171619 (JST)012345 (km)40dBZ/6core basecore top(a)(b)図4(a)PAWRにより観測された降水コアのレーダー反射強度の最大値及びその高度の時間変化。(b)core topとcore baseの時間変化。1628:51-5-4-3-2-1012PANDA (km)34567891011PANDA (km)202030PAWR1630:00-5-4-3-2-1012PANDA (km)202030 -12-10-8-6-4-2 0 2 4(m/s)(a)(b)図52016年7月28日(a)1628:51 JSTにドップラーライダーの仰角0度のPPIで観測されたドップラー速度(カラースケール)、(b)1630:00 JSTにPAWRの仰角0度で観測されたドップラー速度(カラースケール)。黒のコンターはPAWRの仰角0度でのレーダー反射強度(単位dBZ)を示す。46   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測

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