まえがきリモートセンシングツールのひとつであるSARは、電波の送受信を介して対象物の形状・位置等を高い空間分解能で可視化することのできる装置である[1]。SARは自ら電波を照射する能動型のレーダーであるため昼夜間問わず、またマイクロ波帯の電波を利用することで雲や噴煙の有無を問わず対象物を観測することができる[2]。地表面を観測するSARは航空機や人工衛星といったプラットフォームに搭載され、そのプラットフォームの移動に合わせアンテナから斜め下に電波を送受信することで面的な観測を実現している。人工衛星と航空機では観測対象となる地表面からの距離(飛行高度)が100 kmのオーダーで異なるが、SARの信号処理の特性上両者に空間分解能の優劣は生じない[2]。ただし、観測機会については次のような差がある。すなわち、定期的な繰り返し観測については周回軌道をとる衛星SARが適しているのに対し、多方向からの観測には軌道が固定されていない分、航空機SARが適している。具体例を挙げるとすれば、地盤沈下の継続的なモニタリング[3]などには衛星SARに優位性があり、険しい山岳地形の観測[4]等には航空機SARに優位性がある。このように、衛星SARと航空機SARは観測目的に依存して相補的な関係にある。NICTでは、1993年からXバンド航空機SARであるPolarimetric and Interferometric SAR(Pi-SAR)シリーズの開発及びその取得データの解析に関する研究を行っており[5] [6]、現在は第三世代のPi-SAR X3[7]を開発中である。Pi-SARシリーズに関する研究目的のひとつは、噴火・地震・豪雨・土砂崩れ等の自然災害の被災地エリアの迅速な状況把握である。上述のようにSARは昼夜間問わず、また雲や噴煙の存在に関わらず地表面を可視化することができるため迅速性が求められる災害観測に適している。NICTではこれまでに三宅島[8]・新燃岳[4]・御嶽山[9]等の噴火に伴う火口付近の観測、新潟中越地震[10]・東北地方太平洋沖地震[11]・熊本地震に伴う被災地エリアの土砂崩れ[12]や津波の浸水域の観測[13]及び紀伊半島の豪雨に伴う自然ダムや土砂崩れの観測[14]を行ってきている。また、観測実施から画像データ提供までの迅速化を目的とし、観測データの機上処理システムの開発[11] [15]も行っている。このシステムによれば観測の合間に観測データ画像を生成し、航空機から衛星通信経由でインターネット上へ直接提供することができる。被災地エリアの迅速な状況把握のためには上述の迅速な観測及び画像化信号処理に加え、観測画像データからの情報抽出の迅速化が必要である。ここでネックとなるのが、SAR画像データに固有のジオメトリック変調と呼ばれるゆがみ[1]である。このゆがみはSARの斜め観測という観測原理に由来している。このゆがみのため、SAR画像から目視で情報抽出を行うには経験が必要である。この問題に対する有力な解決方法のひとつは、情報抽出の自動化である。近年著1合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar: SAR)は、昼夜間問わず、また雲や噴煙の存在にかかわらず地表面を可視化することができるため、災害観測に適したリモートセンシングツールである。本稿では土砂崩れ場所付近における地震前後の差分高マップをクロストラック干渉SAR計測に基づき導出し、他センサーデータとの比較を通じてその評価を行った結果について報告する。The synthetic aperture radar (SAR) is a useful remote sensing tool for disaster monitoring owing to its capabilities for day/night observation under all weather conditions. In this article, we derive the height difference map in the landslide area before and after the earthquake and then evaluate it by comparing the results with data from another sensor.3-2 クロストラック干渉SARデータセットの土砂崩れに関する解析3-2Landslide Analysis using Cross-track Interferometric SAR Data上本純平 児島正一郎 灘井章嗣 中川勝広 Jyunpei UEMOTO, Shoichiro KOJIMA, Akitsugu NADAI, and Katsuhiro NAKAGAWA573 航空機SARによる地表面の観測
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