HTML5 Webook
67/134

まえがきリモートセンシングは人工衛星や航空機などから地表を観測する技術である。広範囲を観測でき、直接人が立ち入りにくい地域でも観測できるなどの利点がある。観測手段としては可視光や赤外光での撮影やマイクロ波レーダーなどがある。このうち、マイクロ波レーダーには雲や噴煙などの有無に左右されない、昼夜を問わず24時間観測可能であるなどの利点がある。マイクロ波レーダーではアンテナサイズが大きいほどより高い分解能を得られる。しかし、人工衛星や航空機にアンテナを搭載しなければならないリモートセンシングにおいて、その大きさには物理的な制約がある。合成開口(Synthetic aperture)とは複数の小さなアンテナで受信された信号を合成することで、仮想的に大きなアンテナで受信したかのような信号を生成する手法である[1]。人工衛星や航空機による合成開口レーダー(Synthetic aperture radar: SAR)では移動する単一のアンテナを用い、時間差で観測した信号で合成開口を行う[2]。これにより、小さいアンテナでも高い空間分解能を実現する。リモートセンシングには航空機によるものと人工衛星によるものがあり、それぞれ異なる特徴を持つ。航空機SARと衛星SARの最大の違いはその高度である。航空機SARが上空数千mから1万mの高度を飛行するのに対し、衛星SARは数百kmから千kmの高度を周回している。そのため、衛星SARの方が広い範囲を観測することが可能である。また、衛星SARは上空を常に周回しているため定期的な観測を行うのに向いている。一方で、航空機SARは随時、観測の飛行コースを設定できるため、軌道の決まった衛星に対し電波の入射角や照射方向の設定の自由度が高いという利点がある。また、アンテナの大きさや個数について航空機SARの方が制約は少ない。情報通信研究機構は航空機搭載SARであるPi-SAR X2を2006年から開発し運用を行っている。Pi-SAR X2はXバンド(9 GHz帯)のSARで、最高0.3mの空間分解能を持つ[3]–[5]。したがって、極めて高精細な地表の観測画像を得ることができる。しかし、SARで取得される画像は基本的にモノクロであるため、専門家以外が情報を正確に読み取り、有効に活用することは難しい。機械学習は人間や多くの生物が自然に持っている学習能力と同様の機能をコンピュータ上で再現しようとする試みであり、古くから様々なアプローチで研究が行われてきた。深層学習は機械学習手法のひとつで、多層のニューラルネットワークによって行われる学習である。近年の計算機の急激な能力向上や、インターネットの発達によって訓練データの調達が容易になったことによって盛んに研究が行われるようになった。深層学習は画像、音声、自然言語などを対象とした分1情報通信研究機構は航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR X2)で地表の観測を行うとともに、その観測データを有効に活用しやすくするため、機械学習、特に深層学習を用いてデータを処理する方法についても研究を進めている。本稿ではPi-SAR X2の観測データと地理情報システム(GIS)データから得られた植生データを基に深層学習手法で土地被覆分類を行った結果を報告する。The National Institute of Information and Communications Technology (NICT) observes the ground surface with the airborne synthetic aperture radar: Pi-SAR X2 and conducts research on methods of processing the observed data using machine learnings, especially deep learnings, in order to make it easy to use effectively. In this paper, we report the result of land cover classifica-tion by deep learning based on the observation data of Pi-SAR X2 and the vegetation data ob-tained from Geographic Information System (GIS) data.3-3 Pi-SAR X2(航空機SAR) × 深層学習による土地被覆分類3-3Land Cover Classification by Pi-SAR X2 (Airbone SAR) and Deep Learning有馬悠也Yuya ARIMA633 航空機SARによる地表面の観測

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る