はじめにNICTでは航空機搭載合成開口レーダーの研究開発を行っている。合成開口レーダーは、航空機や人工衛星といった移動体に搭載した小口径のアンテナで電波を送受信し、地上を高分解能で観測するレーダーである。移動体のアンテナから送信された電波は観測対象(ターゲット)で散乱され、その一部は移動体のアンテナで受信されるが、受信される電波の周波数は移動体とターゲットの位置関係に対応したドップラー周波数偏移を受けている。合成開口レーダーは、このドップラー周波数偏移からターゲットに対するアンテナ位置を推定することにより、移動体の進行方向に大きな口径を持つ仮想的なアンテナを形成し、実際に用いている小口径アンテナでは達成できない高い空間分解能で地上を観測するレーダーである。このように、合成開口レーダーは受信波のドップラー周波数偏移を利用しているため、移動体とターゲットの運動がわからなくてはレーダー画像を作成することができない。地上に静止したターゲットであれば移動体の運動からレーダー画像を作成することが可能であり、等速移動するターゲットであればターゲットの運動を推定することによりレーダー画像を作成できる。海洋は地球表面の約7割を占めており、気候などの地球環境へ大きな影響を与えていることがわかってきている。このため、海洋観測の重要性が認識されてきているが、船舶等を用いた直接観測を多くの地点で継続的に行うことは大変困難である。このため、人工衛星などによるリモートセンシング技術の応用が期待されている。海洋表面には流れ(海流)のみならず、波(海洋波浪)が存在する。海面の波は1つの周期・波向きを持った成分(波浪成分)だけが存在するわけではなく、多くの波浪成分の合成として海洋表面を覆っている。これらの波浪成分はそれぞれ海洋表面に運動をもたらすため、海面は極めて複雑な運動をしている。このため、海面を合成開口レーダーで観測した場合、地表観測に比べ空間分解能が劣化してしまう。また、ターゲットの運動が合成開口レーダー画像に与える影響は複雑であり、画像からの海洋波浪解析には多くの困難が伴うため、現在も研究が進められている[1]。海洋環境は海洋波浪や海流により大きな影響を受けるが、これらは海面上を吹く風(海上風)により生じる。1海上風は沿岸の海洋環境に対して重要な役割を持っているが、従来の手法では空間分解能の粗さから沿岸近くの海上風を計測することができなかった。そのため、合成開口レーダーによる海上風計測に関する研究が行われているが、海面後方散乱係数の入射角、風速、相対風向に対する依存性をレーダー周波数ごとにモデル化する必要がある。本稿では、航空機搭載合成開口レーダーを用いて、短時間のうちに複数の方向から観測を実施することで、後方散乱係数のモデル化を行う可能性について検討した。The oceanwinds information is quite important to consider the coastal environment. However, conventional methods cannot measure oceanwinds in coastal region due to their coarse spatial resolution. Therefore, the synthetic aperture radar is noticed as a new method to measure ocean-winds because of its fine spatial resolution. To measure oceanwinds, ocean surface backscattering coefficient has to be modeled as a function of incidence angle, wind speed, and relative wind di-rection to radar beam at each radar frequency. In this paper, the possibility to build a model of ocean surface backscattering coefficient from multi-azimuthal measurements of same ocean area in a short time by using airborne synthetic aperture radar.3-4 航空機搭載合成開口レーダーによる海面観測3-4Surface Observation by using Airborne Synthetic Aperture Radar灘井章嗣Akitsugu NADAI673 航空機SARによる地表面の観測
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