観測は日本海にある山形県飛島周辺海域を対象に、2005年02月15日11:36–12:15(JST)に行った。観測諸元を表2に示す。この観測領域では、観測時には冬季モンスーンによる北西風が吹いており、観測対象海域の空間スケール(25km四方程度)は海上風の空間スケールに対して大きくないと考えられる。またすべての観測が45分程度のうちに終了していることから、観測期間を通して海上風は一定であったと仮定する。飛島にはアメダス観測点が設置されており、観測期間のほぼ中央時にあたる12時にはWNW13m/sの風が観測されていた。さらに、再生画像に現れた飛島風下側のシャドー域の広がりから、観測時の風向を310度とした。観測領域のうち、飛島やその周辺に存在する岩場の影響を受けていない海面を対象に、アジマス10kmの領域に対して再生処理を行った。観測可能なグラウンドレンジはプラットフォームの移動速度により影響を受けるため、それぞれの観測における最大観測グラウンドレンジ範囲を再生対象とした。交差偏波に対する海面後方散乱係数は平行偏波に比べて小さいため、外来ノイズの影響を受けやすい。また、比較に用いる衛星搭載合成開口レーダーを用いて統計処理により作成されたモデル関数XMOD2 [5] [6]は平行偏波の1つであるVV偏波に対するモデルとなっている。そこで、本研究では解析対象をVV偏波に限定した。さらに、Xバンド航空機搭載散乱計による計測結果[7]との比較も併せて行った。航空機SARによるモデル解析海面後方散乱係数σ0について、モデル関数XMOD2と同様に、風速U、相対風向φ、入射角θを用いて以下のようなモデルを考える。σ0 = a0(U, θ) (1 + a1(U, θ) cos(φ) + a2(U, θ) cos(2φ)) (1)ここで、a0は風速にのみ依存する係数である。一方、a1, a2は風速と相対風向に依存する係数である。特に、a1が風上向き観測と風下向き観測における後方散乱係数の差を決めるのに対し、a2は風に平行な観測と直交する観測における後方散乱係数の差を決める。加えて、すべての係数は入射角の関数となっている。本研究では、航空機SARを用いて3方位角から観測した、同じ入射角に対する海面後方散乱係数を組み合わせることにより、ある入射角における係数a0, a1, a2を算出する。実際の再生画像には波浪など海洋表面現象由来の後方散乱係数変化が存在する。これらによる影響を除くために空間平均を行った。アジマス方向にはアジマス平均処理範囲にわたり、レンジビンごとに単純平均処理を行う(アジマス1km当たり800点)。レンジ方向の平均化は、グラウンドレンジ-入射角変換の際にGaussianフィルタを用いることで空間平均を行う。本研究では航空機搭載合成開口レーダーによる海面後方散乱係数モデルの作成に空間平均サイズが及ぼす影響について検討した。結果5.1レンジ平均スケールの影響レンジ平均スケールの影響を検討するため、それぞれの観測で海面後方散乱係数を算出する際のレンジ-入射角変換で使用するGaussianフィルタのe-folding scaleを変化させた結果を図1に示す。アジマス方向には5kmの空間平均を行っている。海面後方散乱係数は入射角が小さい時には大きく、入射角の増大に伴い減少する。また、レンジ平均スケールが小さい(e-folding scaleが小さい)場合には、算出された後方散乱係数に小さな入射角スケールの変動が存在するが、e-folding scaleの拡大につれ広いレンジ範囲での平均化が行われるため、変動は小さくなる。この変動は海洋波浪や小さな空間スケールを持つ海上風変化などの影響と考えられる。海面後方散乱係数のモデル関数を考えるとき、このような小さな入射角スケールを持つ変化は存在しないと考えられるため、ある程度大きなe-folding scaleを設定することが必要であるが、大きすぎるe-folding scaleは入射角変化が存在する状況では不適当と考えられる。このため、以降の解析ではe-folding scaleを2度とする。5.2アジマス平均スケールの影響それぞれの観測において、合成開口処理したアジマス方向10kmのデータに対し、1kmごと及び5kmごとにアジマス平均化した後方散乱係数を図2に示す。アジマス平均スケールを1kmにした場合、どの観測番号においても後方散乱係数には数dBのばらつきがみられる。一方、このばらつきはアジマス位置との明確な対応は見られないため、大きなスケールを持つ海上風変化ではなく、数km程度の空間スケールを持つ海上風変化の影響と考えられる。アジマス平均スケールを5kmとした場合、観測番号9001(図2a)では後方散乱係数の変化はかなり小さくなるが、観測番号9002(図2b)、9003(図2c)では1dB程度のばらつきが残っている。本研究では、観測領域では日本の冬季モンスーン期特有の北西風が吹いていたことから、その空間スケー45693-4 航空機搭載合成開口レーダーによる海面観測
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