まえがき雲は地球の放射収支に大きく寄与している一方、その全球的な様相、特に鉛直分布の情報は不足していて、地球温暖化予測モデルの大きな誤差要因となっている。気象衛星の観測では雲の水平分布は把握できるが、雲の高さ、厚さ、重なった雲の下の雲の様子など放射収支に重要な鉛直情報は制約されている。そうした状況の中、温暖化の予測誤差を減らすために雲や大気微粒子(エアロゾル)や放射収支を全球的に把握するアースケア(EarthCARE)と呼ばれる衛星ミッションが欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)とNICTによって計画され、2007年から開発が続けられている[1]。ESAが衛星本体、大気ライダー、多波長イメージャ、広帯域放射収支計の開発及び打ち上げ、打ち上げ後の衛星運用を担当して、JAXAとNICTはこの衛星に搭載する雲レーダー(CPR: Cloud Profiling Radar)の開発を担当している。雲レーダーとはミリ波という高い周波数を利用したレーダーで、雲から反射されてきたエコーの距離と受信強度により、雲の構造や雲粒子の量などが推定できる。衛星からカメラやライダーなどの光学的な手法で雲を測定しようとすると、上空の雲で遮られ、下層の雲の情報が得られないということがあるが、CPRはそうした制限を受けることなく、雲の鉛直構造をとらえることができる。雲の放射収支には鉛直構造の把握が重要であり、CPRはEarthCAREミッションの中で欠かすことのできない重要な測器である。雲レーダーは米国航空宇宙局(NASA)が2006年に打ち上げたCloudSat衛星に初めて衛星搭載され、全球の雲分布を明らかにするなど大きな成果を上げてきた[2]。EarthCARE/CPRはそうした全球雲観測を引き継ぐとともに、CloudSatより高い受信感度でエコー強度の弱い薄い雲の観測が増えることにより、雲の放射収支の精度を高めることが期待されている。NICTは熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダーの開発経験があることから衛星搭載気象レーダーのパイオニアとして、JAXAと協力しながらEarthCARE/CPRの実現に貢献してきた。本稿ではCPRのハードウェアの紹介をするとともにNICTが特に大きく寄与してきたCPRの地上データ処理アルゴリズムについて記述する。1地球温暖化予測モデルの不確定要素のひとつである雲・エアロゾルの気候への影響を明らかにするために、日欧で協力してEarthCAREという衛星計画を進めている。この衛星に搭載する雲の鉛直断面を観測する雲レーダー(CPR)をJAXAとNICTで協力して開発してきた。本稿ではCPRのハードウェアについて紹介するとともにNICTが主に開発に関与しているCPRの地上データ処理アルゴリズムの概要について述べる。EarthCARE is a joint satellite mission between Japan and Europe. This mission aims to clear cloud and aerosol’s influence to global climate that is one of unknown factors for global warming prediction models. The cloud profiling radar (CPR) installed in the EarthCARE satellite has been developed in Japan in cooperation with NICT and JAXA. In this paper, the CPR hardware is intro-duced and outline of the CPR ground data processing is explained.4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測4Global Environmental Observation from Space by Satellite-borne Sensors4-1 EarthCARE搭載雲レーダーの開発とアルゴリズム開発4-1Development of the EarthCARE Cloud Profiling Radar and its Data Processing Algorithm大野裕一 堀江宏昭 佐藤健治Yuichi OHNO, Hiroaki HORIE, and Kenji SATO734 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測
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