で設計している。パルス繰り返し周波数はCloudSatに比べて高いが、これは主にCPRのドップラ観測を実現させるためである。衛星は移動速度がかなり速いため、パルス繰り返し周波数が低いとパルス間の受信エコーの相関が減少してドップラ速度測定精度が極端に悪化してしまう。そのため、できるだけ高いパルス繰り返し周波数が望ましいが、一方、パルス繰り返し周波数が高すぎると観測高度範囲が狭まってしまう。そのため雲の出現高度範囲を考慮して、それに応じた最適なパルス繰り返し周波数を設計する必要がある。CPRのデータ処理部にはエコー強度を測定するための対数検波器とともに受信波の位相を検出するためのIQ検波器が備わっていて、IQ検波器の出力をパルスペア処理することでエコーのドップラ速度を検出する[4]。雲エコーのドップラ速度を観測することで粒子の判別(雲、霧雨、雨)や粒子の大きさ推定に役立つと期待しているが、3で示すように様々なドップラ速度の誤差要因があり、地上処理アルゴリズムでどこまでこの誤差を低減できるかが課題である。2015年にCPRはフライトモデルの組立てが終ってフライト試験(図3)を開始したが、熱真空試験の最中に従系の高出力送信機が突然停止するという現象が発生した。その原因の特定に長く時間がかかったが、現在はEIKを駆動する高圧電源装置の不具合だと判明して、海外のメーカーに返送し、修理をしているところである。この修理が終わればCPRを再度組立てて最終確認試験を行い、ESAに引き渡し衛星に搭載する予定である。衛星の打ち上げは2021年を予定している。CPRのデータ処理アルゴリズムEarthCARE衛星に搭載された4つのセンサの観測データ(CPRも含む)は軌道上でまとめてデータ保存され、極域でESAの衛星通信施設に伝送され、地上処理施設に送られる。このデータは再び4つのセンサごとに分けられて、各センサの地上データ処理を実施する。CPRの処理についてはJAXAのデータ処理システムで処理を行うために、ESAからJAXAにデータが転送されて、校正や物理値への変換をメインとしたレベル1処理を行う。レベル1処理されたCPRのデータは日本側のCPR高次処理に回されるとともにESA側も独自の高次処理を実施するために再びESA側にも送られることになる。NICTはレベル1アルゴリズムのデータ処理手法の元となるアルゴリズム記述書(ATBD)を提供し、そのコーディングはJAXA側で行われている。また、送信電力推定や地表面エコーの処理など一部の処理関数についてはNICTでコーディングしたものを提供している。一方、高次アルゴリズムについては、NICT独自でCPRのレーダー特有の誤差補正手法を提案して、そのコーディングも実施している。例えば、水平距離積分を行うことでエコー強度やドップラ速度のランダム誤差を低減したり、数値モデルの気象データを使って大気による積算電波減衰量を計算してエコー強度を補正したり、地表面のすぐ上では受信フィルターの形に応じた地表面クラッタが生じるがエコーの強さを予測されるクラッタの大きさと比較することで地表付近の雲エコーを検出したり、地表面エコー強度の観測値から予測される強度からの差を算出してその上空の雲や雨による積算電波減衰値を出したりするアルゴリズムを開発している。また、ドップラ速度のデータ処理においてはレベル1では考慮していないドップラ折り返し補正やエコー強度の水平方向の不均一から生じる速度誤差の補正をするためにアルゴリズム開発も進めている[5]。こうして各種補正されたCPRのプロダクトは雲物理量を算出するさらに高次のアルゴリズムに利用されることになる。衛星気象レーダーによるドップラ観測は初の試みであり、そのアルゴリズム開発は手探りの部分も多いが地上や航空機搭載雲レーダーの経験を生かしながら進めている。図4は数値気象モデル3図3 フライト試験中のCPRⒸJAXA754-1 EarthCARE搭載雲レーダーの開発とアルゴリズム開発
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