3月から埼玉大学で観測を開始した[8] [9]。本稿ではこの偏波化されたフェーズドアレイ気象レーダー(Multi-Parameter PAWR :以下MP-PAWRと略す)を紹介する。MP-PAWRの開発コンセプトを図1に、積乱雲の生成・発達過程の時間スケール、従来気象レーダーと PAWR, MP-PAWRの観測方法の違いを図2に示す。従来、気象レーダーは地表付近の雨層の下層の水平分布の観測を中心に行い、上空の降雨の観測は限定的であったのに対し、PAWR, MP-PAWRでは、最下層から上空までの雨雲全体を高頻度で観測することで上空に発生する大雨の素[10]をより早い時間にとらえ、局所的な豪雨の予測を的確に実施することを目的としている。フェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)2.1フェーズドアレイアンテナによる高速ビーム走査従来型気象レーダーはパラボラアンテナによる鋭いペンシルビームを方位角方向に回転させ、1回転ごとに仰角方向を変更し、複数の仰角のデータを合成してレーダーを中心とする領域の三次元観測を実施している。PAWRでは、送信時のワイドビームの電子走査と受信時のデジタルビームフォーミングによる同時複数のペンシルビームを合成することでほぼ瞬時に鉛直断面での観測を実施し、方位角方向の1回転で三次元観測が可能なところが大きな違いである。X帯の気象レーダーとして国土交通省が全国に39台(平成30年8月時点)整備しているXバンドMPレーダー雨量計の場合には、方位角の回転速度は約2RPMで、5分間の1シーケンスで15周、12方向の仰角での観測*1を行う。それに対し、MP-PAWRでは、方位角方向には比較的低速度による回転で、観測半径80kmの場合:1分、観測半径60kmの場合:30秒で三次元観測が可能である。XバンドMPレーダー雨量計とPAWRの仰角の違いを図3に示す。図3(a)は、XバンドMPレーダー関東局の12方向の仰角と、MP-PAWRの2つの観測モード:観測半径80kmと観測半径60kmの全仰角を示している。XバンドMPレーダー雨量計の場合、複数のレーダーでのネットワーク的な観測を行う配置でもあり、最大仰角は20度までであるのに対し、MP-PAWRは観測半径が80kmとXバンドMPレーダー雨量計同様の場合に最大仰角60度、少し観測半径が小さい60kmの場合には天頂方向まで観測可能な最大仰角90度と仰角範囲の大幅な拡大が可能なのは仰角方向のビーム走査を機械的で2図2 積乱雲の生成・発達過程(時間スケールと観測方法)~1時間上昇気流水蒸気(見えない)雨のでき始め雲の形成気象レーダーによる降雨観測水蒸気・雲観測10-20分程度従来レーダー雨雲下層を断片的に上空の大雨の素を捉えるMP-PAWR雨雲全体を連続的に機械的なビーム走査フェーズドアレイによる電子走査図3 観測仰角の比較(XバンドMPレーダーと MP-PAWR)(a) 全ての仰角について(b) 低仰角について図4電子走査の送信ビームとデジタルビームフォーミングによる同時受信ビームの関係(a)観測範囲:80 km の場合(b)観測範囲:60 km の場合*12つの低い仰角については、1分間隔で交互に観測し、5分間の1シーケンスで5周行い、残りの10周で異なる仰角での観測を行うため、5分間で15周、12方向の仰角での観測となる。4 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)2 地上レーダーによる気象現象の観測
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