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これらのデータをどう利用するかが課題であった。しかしながら、雲に関しては静止気象衛星の雲画像等の情報は利用できるが、鉛直プロファイルを直接的に測定できる標準的な測器は無いことから、地上からの雲の鉛直プロファイル観測が必要になる。先にNICTが開発したSPIDERの観測性能は、EarthCARE/CPRの検証には不十分であることから、新たに検証用に地上設置雲レーダーを開発することになった。次章以降で検証に必要な機能・性能を定義し、開発した地上設置雲観測レーダーについて説明する。EarthCARE/CPRの概要EarthCARE衛星搭載CPRの観測概念図を図1に示す。EarthCARE/CPRは、SPIDERと同じくW帯の周波数94GHzを使用する。観測範囲は地表から高度20kmまで、高度分解能は500m(パルス幅3.3マイクロ秒)であるが、雲の高さをより詳しく調べるため100mオーバーサンプリングする。アンテナビームの瞬時地上投影径は750mであり、衛星の進行方向に500m(約1/14秒)積分されるが、観測性能は10km積分した値で評価される。EarthCARE/CPRの大気上端での感度は−35dBZ*であるが、2006年打上げの国航空宇宙局(NASA)のCloudSat衛星搭載CPR[7]の約4倍の観測感度であり、地球の放射収支に影響する氷雲の98%のほか、層積雲(水雲)の50%を観測できるとされている[7]。また、雲の鉛直速度を観測するため、衛星搭載気象レーダーとしては世界初となるドップラ速度測定機能を有しており、−19dBZの雲における測定精度は1m/sとなっている。この鉛直速度を用いた雲と弱い雨(drizzle)の識別など雲水量算出アルゴリズムの改善が期待されている。衛星からのドップラ速度測定では、衛星進行方向の雲の水平不均一が測定誤差を生じさせることから[8]、雲の不均一の把握が必要とされている。また、パルス繰り返し周波数(PRF)を高くすることで、測定精度を改善できることから、EathCARE/CPRは観測位置の緯度により観測高度を18kmまたは16kmまでに落とし、代わりにPRFを上げる運用が可能であり、緯度60度を境に変更する運用が計画されている。検証用地上設置W帯雲観測レーダーの開発コンセプト          EarthCARE/CPRによる観測性能のうち、他の装置が利用できない検証項目は大きく分けて2つある。1つ目の項目は、観測感度−35dBZである。先に開発したSPIDERは航空機搭載型として開発されたため、アンテナ径が機体の大きさにより制限され、感度は−30dBZ(パルス幅1us、1秒積分時)程度であり、EarthCARE/CPRの感度より劣る。そこで、EarthCARE/CPRよりも高感度の地上検証用SPIDERを開発する。感度設定にあたり、日本付近で運用するため大気上端を15kmと定義し、中緯度の大気減衰を2dBとし、測定マージン3dBを考慮した結果、1秒積分時の要求感度を−40dBZとした。また、EarthCARE/CPRのサンプリング間隔は100mであるが、地上レーダーではより詳しく観測するため、パルス幅3.3マイクロ秒に合わせるのではなく、1マイクロ秒で定義した。運用に当たっては、EarthCARE/CPRと比較することも想定しているが、衛星の観測幅750m、回帰日数25日であることから、直接比較する機会はあまり多くないと考えられる。また、アンテナビームのフットプリントも大きく異なるので、似たような対象の雲を測定し、統計的な比較をすることを考慮している。この目的に特化した検証用レーダーを、高感度雲観測レーダー(HG-SPIDER: High-sensitivity Ground-based SPIDER)と名付けて開発することとした。2つ目の項目は、雲の鉛直速度の検証である。HG-SPIDERもドップラ速度を測定するが、前述のとおりアンテナビームフットプリント内の雲の水平不均一を把握するため、瞬時に水平面内を走査して観測できる必要がある。このため、HG-SPIDERとは別の検証用レーダーを開発することにし、走査に時間がかかる機23図1 Earth CARE/CPRの観測概念図と性能ドップラ速度計測機能を有する世界初の衛星搭載雲観測レーダーセンサの性能要求*:感度: -35dBZ (大気上端で定義)速度計測精度(姿勢誤差含):< 1.0m/s (-19dBZ以上の雲)*均一な雲、10km積分時積分長:500m地表面投影径:750m0.095 度.衛星軌道方向鉛直分解能:500mサンプリング:100m観測高度(サブモード)20km (Low)18km (Mid)16km (High)(緯度により選択)送信尖頭電力>1.5kW(EIK出力端)CPRアンテナ指向:鉛直下向きEarthCARE衛星搭載雲観測レーダー(CPR)の概要*dBZ:Z因子(下記参照)のdB(デシベル)表記Z因子:気象レーダーは一般に雨や雲粒子の散乱断面積を測定するが、これを単位体積当たりの粒子の直径の6乗に比例する量に変換し、これをZ因子と呼ぶ。Z=∑D6(単位:mm6/m3)80   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測

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