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高感度雲観測レーダー(HG-SPIDER)の 開発               HG-SPIDERは、SPIDERと比べて10倍感度を向上させるため、アンテナ径を大きくすることと、伝送路を極力短くして損失を抑えることとした。開発費用が限られることから、アンテナ鏡面や高価な大電力送信管(EIK)は衛星開発時の試作品を流用して製作した。開発したハードウェアの外観を図3に示す。データ処理部は、ウィンドプロファイラーやその他のレーダーに使用しているソフトウェア無線機(USRP)を利用して内作した。レーダーとして安定動作をさせるためSPIDERには無かった送信電力のモニタ機能やノイズダイオードを用いた受信器の校正機能を有している。表1にHG-SPIDERの主要諸元を記す。図4はSPIDERとHG-SPIDERの同期観測時の比較である。横軸は時刻、縦軸は高度を示しており、時間-高度プロファイルを示している。SPIDERは高度12kmまでしか計測していない。赤丸で囲った箇所は感度の差が顕著に表れており、SPIDERでは観測できなかった雲が、HG-SPIDERでは観測できていることがわかる。なお、EIKは寿命品であり、試作品を流用した関係から、残された運用可能時間が余り多くない。残時間を考慮したEarthCARE衛星の打上げまでの運用を計画している。電子走査雲観測レーダー(ES-SPIDER)の 開発                TRMM/PRやGPM/DPRは衛星搭載の電子走査レーダーであり、128素子の導波管スロットアレイアンテナである。電子走査雲観測レーダー(ES-SPIDER)の開発にあたり、同じ方式の導入を検討したが、電波の波長約3mmのスロットアンテナは容易に製造できないことがわかり断念し、2次元に小アンテナを配置する方法とした。また、送受兼用のアンテナ素子の作成は費用がかかることから、送信は広く電波を照射するファンビームとし、受信のみを狭いビームのフェーズドアレイアンテナで1次元に走査する方式を採用することにした。図5(左図)に全体の筐体と送受信アンテナを示す。送信は大電力送信管(EIK)を用いるが、受信は各アンテナ直下にLNAとダウンコンバータで構成された受信モジュールを取り付け、中間周波数帯で信号を合成する方式とした。通常フェーズドアレーアンテナは、アンテナ素子間を波長より短くして、複数の等位相面すなわち意図しない方向のビーム(これをグレーティングローブと呼ぶ)の発生を避ける必要がある。しかしながら、開発費用の問題から素子数をできるだけ抑えることになり、走査範囲±4.5度の範囲外ではグレーティングローブを許容することで、波長の数倍の20mm間隔で素子を配置する設計とした。送信のアンテナパターンと受信のアンテナパターンの合成になるので、グレーティングローブの寄与は相対的に小さくなる。また、走査方向のグレーティングローブを軽減するために、図5(中上図)の示すとおり、素子をずらして等価的に10mm間隔とみなせる配置にしてある。形式としてはホーンアンテナアレイであ455HG-SPIDERSPIDERHG-SPIDERのみで検出図4 SPIDERとHG-SPIDERの感度比較上:HG-SPIDERによる観測、下:SPIDERによる観測送信用レンズホーンアンテナ受信用ホーンアンテナアレイホーンアンテナアレイ8個で1素子旧受信器(32ch信号合成+LOG検波器)新受信器(32chデジタル受信器)図5 電子走査雲観測レーダー(ES-SPIDER)左:送受信システム、中上:ホーンアンテナアレイ、中下:旧受信器、右:新受信器取得時間:7秒 (積分約0.1秒x63走査角度)図6 ES-SPIDERによる観測例(旧受信器-逐次走査)取得時間:約7秒(積分時間0.1秒x63走査角度)横軸:±1800m、縦軸:0から10km左図と右図の時間間隔:210秒82   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測

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