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なく、電子走査を採用しているためである。受信時のデジタルビームフォーミングによる同時複数ビームの採用は仰角数の向上に大きく寄与し、観測半径80kmで仰角数77、観測半径60kmで仰角数114と仰角方向のビーム幅1度弱に対して、仰角20度以下では、その半分の0.5度、仰角20度以上で1度の間隔での観測を行い、仰角方向について抜けのない観測が可能である。図3(b)は図3(a)を低い仰角について拡大したものであり、上述のMP-PAWRが仰角方向に抜けのない観測が可能であることが確認できる。また、一番低い仰角についても、XバンドMPレーダーの場合、仰角番号3が0.79度であるのに対し、それより小さな仰角0度、0.5度のビームでの観測を行なっていて、低い仰角の場合には地表物からの反射(クラッター)の影響が大きくデータの解析が難しくなるが、地表付近の観測データ取得が高い時間間隔で実施できることは特筆すべきことである。図4に示したのは、電子走査を行う送信ビームとそれぞれの送信ビーム内をデジタルビームフォーミングで同時に形成される受信ビーム数と仰角の関係で、図4(a)が観測範囲80km、図4(b)が観測範囲60kmの場合である。2.2フェーズドアレイアンテナの構成の違い 1「まえがき」で記述した、(株)東芝と日本無線株式会社による2種類のPAWRとMP-PAWRで使用されているフェーズドアレイアンテナは、送受信のアンテナビームを送信時に仰角方向にワイドビーム、受信時にはデジタルビームフォーミングによるペンシルビームという点では全て同一であるが、アンテナの構成は異なる。表1にその違いを示す。2種類のPAWRでは水平偏波だけでよいため、効率が良く、工作精度でアンテナ性能を設計どおり得ることが容易な導波管スロットアンテナが利用された。偏波を使った降雨レーダー観測では反射強度に加えて、位相情報を使用するため、偏波間の相関を確保する必要があり、水平偏波と垂直偏波の位相中心を同一にし、ビームの形状を一致させることを実現するため、MP-PAWRでは偏波共用の素子アンテナを用いることにした。この偏波共用表1 フェーズドアレイアンテナの構成の違いPAWR (東芝製)PAWR (JRC製)MP-PAWR (東芝製)アンテナ素子導波管スロットアンテナ偏波共用パッチアンテナ送信アンテナ受信アンテナ128素子の下側の32素子を共用受信アンテナの上側に別のアンテナ受信アンテナの下側に別のアンテナを設置受信アンテナ128素子128素子112素子外観[4]より[7]より[8]より表2 MP-PAWRの主要諸元名称MP-PAWR (偏波化されたフェーズドアレイ気象レーダー)中心周波数(占有帯域幅)9425 MHz (4.4 MHz)送信偏波偏波面45度の直線偏波(水平・垂直同時送信)送信尖頭出力4.8 kW (水平:2.4 kW + 垂直2.4 kW)送信アンテナ偏波共用平面パッチアンテナから構成された長方形アンテナ受信アンテナ偏波共用平面パッチアンテナから構成された八角形アンテナレドーム直径4.3 m観測モード通常観測研究観測観測範囲半径80 km半径60 km観測仰角範囲0度~60度0度~90度時間分解能60 秒30 秒短パルス幅1.0 μsec仰角数77114送信ビーム数47送信ビーム番号#0#1#2#3#0#1#2#3#4#5#6DBFによる同時受信ビーム数1418172812122211121926観測ヒット数68786312248202020202036長パルス幅74 μsec48 μsec32 μsec図5 埼玉大学に設置されたMP-PAWRと観測範囲観測範囲「地理院地図(淡色地図)に観測範囲、オリパラ会場、荒川流域を追記しました。埼玉大学工学部建設工学科3号館屋上に設置された鉄塔とレドーム受信用アンテナ送信用アンテナレドームの内部のレーダーアンテナ(設置作業時)アンテナの外観52-1 偏波化されたフェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)開発

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