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(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)の募集する公募型小型計画のミッションに応募しているが、今のところミッション探求フェーズでありプリプロジェクト候補に進むことがまだできていない。SMILES-2は提案段階であるが、それが実現されたときに得られる大気科学への貢献は大きなものになると期待される。中層大気の衛星による観測衛星による中層大気(成層圏と中間圏)の観測は対流圏の観測に比べて数が少ないが、オゾン層問題が注目された1990年代からこれまでに大気のリムを観測するいくつかの衛星が運用されてきている。大気のリム観測は図1のように、宇宙を背景にした地球の)リム、すなわち周縁に見える大気を衛星等から観測する方法であり、大気の高度方向の分解能が良いこと、密度の低い大気でも強い信号強度が得られること、ドップラー効果による周波数シフトを測れば水平風の情報が得られることなどの特徴がある。これまでに中層大気のリム観測は、ミリ波サブミリ波や赤外による観測が行われてきた。赤外では、掩蔽(えんぺい)観測(背景に太陽等があるリム観測で大気による吸収量を観測)等により成層圏の多種の化学物質を測ることなどが行われてきた。現在でも観測の行われている衛星には、Odin、Aura、TIMEDがある[8]–[10]。Odin/SMRとAura/MLSはミリ波サブミリ波の大気リム観測で中層大気のオゾンなど多くの化学物質や大気の温度を測ってきた。日本でも2009年10月から2010年4月までの短期間ではあるが国際宇宙ステーション(ISS)からサブミリ波による大気リム観測を行った。その観測機器が超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)である。SMILESでは超伝導を利用したSISミキサによる637GHz帯の受信機を使用した[11]。Odin/SMRやAura/MLSとの違いはSISミキサを使用したことで、SMILESの受信機感度はほかよりも一桁程度高かった[12]。観測精度の高かったことと、ISSが太陽非同期の軌道であったことから、大気の日変化を正確にとらえることができ、成層圏オゾンの日変化では午前と午後とが非対称であることなどを実証する[13]など、中層大気の日変化に関する知見等について多くの成果をあげた。Aura/MLSでは中間圏・下部熱圏の風を測定できることが示されてきたが[14]、SMILESでは、大気輝線のドップラー観測では低い高度ほど観測が困難になるにもかかわらず、上部成層圏・中間圏で風を比較的良い精度で測定できることを実証した[15]。リム観測により中層大気の温度観測を現在行っているのは、米国の2004年打ち上げのAura/MLS、2001年打ち上げのTIMED/SABERだけである。いずれも打ち上げから14年以上経過しているが、SABER-IIを載せるLATTICE衛星など後継の検討はなされているものの、次期衛星の計画として進められているものはない。スウェーデンでは中層大気の風を測ることを目的としたものとしては初めての衛星SIWを2023年頃に打ち上げる計画である[16] [17]。SIWは638GHz帯のサブミリ波のリム観測を行う計画としている。これはSMILES-2で計画している受信機のひとつのチャンネルと同じ周波数で、中層大気の風のほか、温度、水蒸気、オゾン、HCl、ClO、HO2なども測る計画になっている。SMILES-2はSMILESの経験を基に発展させた衛星として提案している。SMILESでは大気リムを地表面付近の高度から約90kmまでスキャンし、637GHz帯でオゾン、HCl、ClO、HO2、BrO等の分子を観測した。それら分子の濃度プロファイルとともに、成層圏の温度、上部成層圏から中間圏の風、対流圏界面付近の絹雲と水蒸気等も導出された。一方、SMILES-2は、638GHzのバンドに加えて763GHzと2THzのバンドを持つことで、観測高度上限を約150kmまで伸ばし、観測精度を向上して、中層大気の精度良い観測を継続するとともに、宇宙天気で代表される空間と中層大気などの大気圏との境界領域の科学を行おうとするものである。SMILES-2計画の目標SMILES-2は、中層大気から高層大気にかけての大気上下結合に関係する、大気の力学、化学、エネルギバランスの統合的な理解を目的としている。それを具体化した次の4つが科学目標である。(MO.1) 力学・化学・電磁気学過程を通して見た日周変動成分(大気潮汐)の4次元時空間構造の解明23図1 リム観測の概念図。衛星から見て地球周縁にあたる大気から放射される電波を受信し分光する。SMILES-2 ではアンテナを 2 つ搭載し異なるリムの方向を切り替えて観測する。874-3 全大気圏衛星観測(SMILES-2)計画の目標と課題

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