(MO.2) 太陽非同期潮汐、成層圏突然昇温など中層大気の総観規模・惑星規模の現象から高層大気への鉛直伝播過程の解明(MO.3) 磁気嵐や粒子降り込みなどによる磁気圏からのエネルギ注入による大気変動の理解(MO.4) 全大気モデル・気候モデルの基準となる背景場の温度構造や風構造、微量成分分布の詳細なデータの提供地球大気に関するこれらの知見が、さらに他の惑星の大気研究にも活かされ得ることも科学目標の中に含めている。例えば、火星では大気運動が地表から熱圏まで連続しているが、地球大気では成層圏があるため主要な大気の循環などの運動が対流圏に制限されているのとは対照的である。SMILES-2により中層大気から下部熱圏にかけての上下結合に知見の得られることは、そのような惑星大気の研究にとっても高い価値がある。SMILES-2衛星の概要4.1科学目標達成に必要な衛星観測の条件科学目標を達成するために、SMILES-2による観測は次の条件を満たす必要がある。(1) 日変化を観測することができ、かつ、高緯度を含めた広い緯度範囲を観測できること(2) 成層圏・中間圏と約150kmまでの下部熱圏の高度域を連続して観測できること(3) 風・温度の日周変化の高度・緯度分布をその変動も検知できる精度で観測できることこのような観測を、SMILES-2ではサブミリ波リム観測で実現する計画である。サブミリ波帯を用いるのは次の理由による。••サブミリ波では中層大気から下部熱圏に至る広い高度範囲を切れ目なく観測することができる。可視等による大気光観測では上部中間圏より高い高度の風の観測、赤外では中間圏から低い高度の温度や大気微量成分の観測に限られる。特に上部成層圏の風観測に実績があるのはサブミリ波帯だけである。••サブミリ波では大気からの熱放射を観測に使うので、大気の日周変化を観測することができる。大気光観測では夜間に観測できる高度範囲は上部中間圏などの一部に限られる。大気の熱放射の信号強度は太陽高度に関わらないので、昼夜でほぼ一様な精度での観測が可能である。••酸素原子の基底状態の輝線は2.06THzと4.74THzだけであり、直接、酸素原子を観測できるのはこのいずれかの周波数である。これらのラインはこれまでスペースシャトルからのグレーティング分光計によるなど限られた観測しかなかったが、風の推定もできる精度で観測できるほどの感度を持つHEBミキサの受信機が現在では利用できるようになった。日変化を観測するため、衛星は太陽非同期の軌道をとる。SMILES-2では高度550km、軌道傾斜角66度の円軌道を想定している。この軌道では、地球に対して約3か月で軌道面が1周するので、1.5~3か月の観測を使うことで日周変化を得ることができ、観測緯度範囲についても、リム観測では観測する大気が衛星から2,500km程度離れているために観測対象は約80度の高緯度まで達することができる。SMILES-2による風・温度・化学物質濃度の観測性能をシミュレーションにより評価している[18] [19]。高度約100kmから上空の風は酸素原子ラインのドップラーシフトから求められるが、SMILES-2の観測条件での観測精度は5 ~20m/s程度と見積もられる。SMILES-2の想定される軌道では1日に同じ緯度帯を15回観測することができるので、1日分の観測を平均すれば1.3 ~5m/s程度の精度が期待され、MLTでの風の日周変化の振幅30m/s程度に対して十分な精度の観測になるはずである。仮に、2THzの受信機に超伝導素子ではないSchottkyダイオードのミキサを利用すると観測精度は一桁低いと想定されるので、1日の平均でも風観測精度は13~50m/sと日周変化がやっと検出できる程度の精度になり、大気上下結合の研究に用いるのは困難と予想される。4.2科学目標達成に必要な衛星観測の条件SMILES-2衛星として図2に示すような構成を提案している。SMILES-2ミッション機器としてのサブミリ波リムサウンダと、その他に電子密度等を測定する小規模な追加ミッションを載せた単独衛星である。サブミリ波リムサウンダは、大気リム観測を行うサブミリ波受信機であるが、4Kに冷却した超伝導ミキサを載せた極低温冷凍機のクライオスタットを中心に、2つの開口径75cmのアンテナといくつかのエレクトロニクスから構成される。図2ではサブミリ波受信機のブロック図とその他の機器についてのサブシステムレベルの構成品を示している。超伝導ミキサには、SMILESで実績のある638GHz帯のSISミキサ、763GHz帯はALMA (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)の技術を利用したSISミキサを488 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測
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