が少なく、低雑音化、低電力のLOでの動作、ビーム特性の改善などの開発課題がある。さらに、SMILES-2のHEB受信機に他の天体の観測や、638GHz帯、763GHz帯の冗長としての利用の可能性を考えれば中間周波(IF)帯域の拡大も重要な開発課題になる。また、638GHz帯、763GHz帯のSIS受信機においても、低雑音化、広IF帯域での周波数特性の平坦化は観測性能の向上に不可欠である。冷却ステージへの熱流入を減らすように冷却ステージ上でサブミリ波周波数を分離する(図2)ためのフィルタも開発が必要である。これらについてNICTでは、国立天文台やJAXAと協力しながら開発を進めている。SMILES-2衛星の実現可能性を大きく左右するのは、そのコストがどれだけ低く抑えられるかと、もうひとつは衛星の電力収支を成立させられるかという点である。SMILES-2はISASの公募型小型計画のミッションに提案したが、その審査で受けた指摘にもこの2点が含まれている。衛星の電力収支の課題について、以下詳述する。ISASの公募型小型計画のミッションでは、小型科学衛星の標準バスを利用するのが標準となっている。衛星バスはそれに限られないが、コストの点からそれより大型のものは考えにくい状況にある。小型科学衛星標準バスでは、日照時に供給できる最大電力が1,000 ~1,200Wに限られる。SMILES-2衛星の軌道では太陽は-Yの半球のいずれの方向も取り得るので、太陽電池パドルは太陽方向に対して常に最適な向きになるわけではなく少し大きなものが必要になるが最大電力は変わらない。軌道周期約96分のうち衛星が地球の陰に入って太陽光が当たらない時間の割合、日陰率は、太陽に対する軌道面の向きによって変わりSMILES-2衛星の場合最大で37.2 %に達する。日陰時の消費電力を日照時の充電で賄うとすれば、バスで必要な電力を差し引いて、ミッション部が常時消費できる電力は200~323Wである。SMILES-2ミッション部で消費電力の大きいものは冷凍機である。超伝導ミキサに必要な4K級の機械式冷凍機ではジュールトムソン(JT)冷凍機が、効率が良いと言われている。SMILES-2の冷凍機には、SMILESやASTRO-H(ひとみ)/SXSに使われた4KのJT冷凍機を使用する予定である。ISSのJEM(きぼう)に搭載されたSMILESの冷凍機は、宇宙で6,088時間運用した後、JEMの循環冷却系のトラブルで運用を中断し、その回復後再冷却を試みたが4Kに到達できなかった[22]。4Kに到達しなかった原因は不純ガス(CO2)がJT流路で固化したことによると推定されていて、ASTRO-HのJT冷凍機ではアウトガスの軽減対策等がなされた。地上試験ではJT冷凍機の4年以上の運転実績が示されている[23]。SMILESでは、JT冷凍機とその予冷とシールド(20K、100Kの冷却増幅器を含む)冷却のための2段スターリング冷凍機の組合せで、消費電力は地上試験時に約153Wであった。機械式冷凍機では運転時間の経過に従って効率が低下するので、それを補償するように入力電力を増大する運用が行われるので、長期間運用する場合に必要な消費電力は運用初期よりも2~3割大きくなる。SMILES-2の冷凍機では、SMILESの冷凍機と同程度かそれ以下の消費電力であることが要求される。SMILES-2では少なくとも3年の寿命が必要であるが、SMILES-2の電力収支が成立するには、3年運用後の消費電力がSMILESの初期の消費電力程度である必要がある。SMILESとSMILES-2の冷却受信機を比較すると、超伝導ミキサの数は2から3に増え、20K冷却ステージに載せる冷却増幅器の数も2から3に増えているが、冷却増幅器の発熱を小さくし、外槽温度(環境温度)をSMILESの24℃よりも低い温度にするなどにより、消費電力を小さくすることを目指している。2段スターリング冷凍機の負担を減らし予冷温度を下げることがJT冷凍機の高効率化につながるので[22]、100Kシールドの表面積を小さくし外槽からの流入熱を減らすために、4K冷却ステージに載せる冷却受信機の容積を小さくすることも必要であり、638GHz帯、763GHz帯をひとつの広帯域ホーンで受信して周波数分離する回路を使用して小型化する開発も行っている[24]。NICTでは、冷却受信機の開発とともに、冷凍機を低消費電力で運用することのできるSMILES-2ミッションのシステム構成について検討を進めている。むすびSMILES-2は中層大気と下部熱圏の、温度、風、密度、水蒸気、オゾン、その他多種類の微量成分を、高い高度分解能(2.5km程度)で測ることができる。軌道傾斜角66度程度の太陽非同期軌道の衛星に搭載することで、約80度の高緯度までの大気について1.5~3か月の観測で日周変化も観測することができる。この観測により大気の上下結合に関した統合的な理解が進み大気科学の発展に大きく貢献すると期待される。また、それが大気モデルの精度向上に寄与し気象予報や気候の将来予測を改善することも期待され、一方、惑星大気の理解への貢献も期待される。SMILES-2はJAXA/ISASの公募する公募型小型計画のミッションとして提案したが、プリプロジェクト候補に選定されなかった。その理由は、衛星の電力収支が成立する見通しが得られていないことと、推算し690 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測
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