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る周波数のテラヘルツ波の信号(RF)に対して、(差周波がマイクロ波の周波数となるように設定した)ほぼ同じ周波数の信号を局部発振器(LO)から発生し、それらの信号をミキサ導入し、ミキサの非線形特性を利用して中間周波数(IF)信号に周波数変換する。マイクロ波信号は容易に増幅することができるため、増幅後にマイクロ波の分光計でスペクトルを検出する。この方式は通信などで広く用いられているが、テラヘルツ波(特に1 THzを超えてくると)で動作する検出器は少ない。この検出器の開発において鍵となる技術は、LOとして用いるテラヘルツ波高出力発振器と高感度ミキサであり、NICTではこれらをデバイスから作製し、地球大気観測への応用を目的とした開発を行っている。これまでの研究開発~サブミリ波における地球大気観測~2.1650 GHz帯SISミキサの開発我々はこれまでにもテラヘルツ波の高感度受信機開発を行い、大気観測への応用を行ってきた。受信機として用いたのは、650GHz帯におけるSIS(Supercon-ductor-Insulator-Superconductor)ミキサと呼ばれる超伝導を利用した高感度ミキサである[5]。SISミキサとは、ごく薄い絶縁体を超伝導体で挟んだジョセフソン接合を持ち、電流-電圧特性における強い非線形性を用いて周波数変換を行う検出器である。低雑音受信機として、天体からの微弱な電波を受信する電波望遠鏡に多く用いられている。特にアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。南米チリの標高5,000 mに設置された巨大電波望遠鏡。ALMA: Atacama Large Millimeter/submillimeter Array[6])においては、0.1~ 1 THzの周波数範囲をいくつかのバンドに分けてカバーするSISミキサが搭載されている。図3にNICTで開発された、650 GHz帯SISデバイスと導波管型(コルゲートホーン付き)ミキサマウントを示す。2.2気球搭載システム開発と大気球による実証実験我々は650 GHz帯SISミキサを搭載した、気球搭載型超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(BSMILES: Balloon-borne Superconducting Submillimeter-Wave Limb- Emission Sounder)[7] [8]の開発を行い、2003、2004、2006 年に文部科学省宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構(JAXA))、三陸大気球観測所(岩手県大船渡市。現在は大樹航空宇宙実験場(北海道大樹町)に移設)において放球実験を行った。気球は高度約34 kmの成層圏に到達した後レベルフライトを行い、アンテナ仰角を変えながら大気のリム(縁)を観測し、大気中微量分子からの放射電波スペクトルを検出した。図4にBSMILESの外観と、2003年の放球に用いられたB80 型気球(容積 80,000 m3)を示す。図5には、2004年の実験で観測された、オゾンやその同位体、HClやHO2などの地球大気微量分子からの放射電波スペクトルを示す。仰角(EL)の値が小さいほど、低高度を観測しているため、圧力広がりによりスペクトル線幅が広がっているのも観測されている。2図2 ヘテロダイン受信機の概念図図3 (a) 650 GHz帯SISデバイス (b)コルゲートホーン付き導波管型ミキサマウント(a)(b)94   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 1 (2019)4 衛星センサによる宇宙からの地球環境観測

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