数比測定の報告はなかった。その後のCCTFでは各機関は絶対周波数に加えて、周波数比も報告するようになった。40Ca+光時計では、イオントラップしている電極などからの黒体輻射BBR (Black Body Radiation)に起因する周波数シフト(BBRシフト)を評価するために、トラップ電極の空間温度分布を慎重に評価する必要がある。この効果は確度を追求していく際に障害となる。一方で、イオン光時計に元々BBRシフトが小さい原子遷移[17]を採用できれば、その分だけ確度向上が期待できる。NICTでは、BBRに対する感度が小さいことに加え、複数イオンで精密な周波数測定が可能であることから[18]、確度と共に高安定度化への展開が期待できるインジウムイオン115In+を用いた光時計の開発を進めている[19]。現在、単一115In+光時計では115In+ 1S0 – 3P0遷移に周波数安定化したレーザー(標準周波数は1.27 PHz)の生成を実現し、現在、NICT-Sr1との間で周波数比測定に取り組んでいる。この取組については、本特集の[19]に記載されている。これまでに報告されている光格子時計同士の直接周波数比測定としては、88Srと87Sr[20]、イッテルビウム(171Yb)と87Sr[21]、水銀(199Hg)と87Sr[22]などがある。また、本研究以外の単一イオン光時計と光格子時計の周波数比については、我々の知る限り論文化された結果はまだない。光ファイバリンクを用いた遠隔地光格子時計の直接周波数比較2011年頃は、遠隔地にある87Sr光格子時計の周波数一致は各機関が報告した絶対周波数を経由した検証のみであり、その一致度は15桁程度であった。周波数一致をより高精度に検証するため、我々と東京大学(UT)香取研究室は研究室間を光ファイバで結び、伝送する光のキャリア周波数を用いて87Sr光格子時計の直接周波数比較を実現した[23][24]。図4に示したように、基線長24kmのNICT本部(小金井)と東京大学本郷キャンパス間を長さ60kmの光ファイバで結んだ。NICT—UT間の光ファイバリンクについての詳細は文献[25][26]に記載されている。NICTでは、NICT-Sr1の安定化レーザー(標準周波数429THz)にTi:Saコムを位相同期した。次に、このTi:Saコムに光伝送用通信波長帯(波長1538nm)の外部共振器付半導体レーザーの第二高調波(波長769nm)を位相同期した。このように、波長変換とTi:Saコムを経由して、NICT-Sr1に位相同期された波長1538nmのレーザーは、位相ノイズを除去した光ファイバ[26][27]中を通って東京大学香取研究室に伝送された。同研究室では、この伝送されたレーザーの第二高調波(波長769nm)にTi:Saコムを位相同期した。光ファイバリンクを介してNICT-Sr1に安定化された香取研究室のTi:Saコムと同研究室の87Sr光格子時計の光ビート周波数を周波数カウンターで計測した。取得したデータから求めたアラン分散を図5に示す。この時の短期安定度はNICT-Sr1の局部発振器で3769 nm698 nm87Sr56 mNICTUT87Sr24 km×2769 nm1538 nm baser×2周波数カウンターで測定698nmノイズキャンセルした光ファイバによる周波数伝送図4 NICT—UT間の光ファイバリンクを用いた直接周波数比較の実験配置NICTから、NICT-Sr1に安定化された波長1.5 µm帯のレーザーをUTに伝送し、このレーザーとUTの87Sr光格子時計との間の周波数差を測定する。104 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準
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