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ある光共振器安定化レーザー(時計レーザー)の安定度で決まっていた。図6に計11回の周波数差測定結果を示す。各点は900–12 000sの平均値であり、両光格子時計の外場の擾乱による周波数シフトは補正済みである。赤と青のエラーバーはそれぞれ統計不確かさと系統不確かさを表している。この当時の両光格子時計の確度(系統不確かさ)5×10–16を考慮し、(1.0±7.3)×10–16で周波数の一致を確認した。図6の黒実線と黒破線はそれぞれ標準誤差を基に求めた重み付き平均と全系統不確かさを表している。この測定では、周波数リンクで比較精度は劣化せず、周波数標準そのものの不確かさでの比較を実現した。以上のようにして、本研究では世界に先駆けて遠隔地にある光周波数標準の直接周波数比較を実施し、これまで不確かさ15桁にとどまっていた周波数一致の確認を16桁台まで改善した。高精度な周波数リンクは時刻・周波数の共有など標準としての役割以外の応用も期待されている。一般相対性理論によれば、重力の影響によって時間の進み方が異なる。実際、NICT—UT間の直接周波数比較では、お互いの重力ポテンシャルの大きさの違いにより、時間の進み方が違うことが短期間で測定された。図4に示すように、NICT本部は武蔵野台地にあり、NICT-Sr1は東京大学本郷キャンパスの87Sr光格子時計よりも56m標高が高いため、時間が早く進む。つまり、歩度である1sが短い、あるいは1Hzが高いということである。図7に周波数差の時系列データをプロットした。磁場や黒体輻射などに起因する両光格子時計間の周波数シフト差と56mの標高差に相当する重力シフト差がはっきりと見て取れる。地下に空洞や鉱脈があれば、重力環境が変わるので、重力環境の違いを光周波数標準の周波数差として検出できることを利用して、将来地下を探索できるようになるかもしれない。実際に、近年では測地への応用を視野に入れて、光ファイバを用いた周波数比較が行われている。2016年には、670km離れた仏国パリのLNE-SYRTE(パリ天文台)と独国ブラウンシュヴァイクのPTB(ドイツ物理工学研究所)の間の光ファイバリンク(光ファイバ長1415km)により、不確かさ5×10–17で87Sr光格子時計の周波数一致が報告されており、そこでは測地への応用についても言及されている[28]。また、同年には15km離れた東京大学本郷キャンパスと理化学研究所和光キャンパス間の光ファイバリンク(光ファイバ長30km)で、87Sr光格子時計の周波数比較を基に不確かさ5cmで両拠点の光格子時計の標高差の測定が報告されている[29]。そして、2018年には、アラン標準偏差平均化時間(s)周波数差(Hz)2011年1/262/102/142/242/28図5 2台のSr光格子時計の相対安定度(アラン標準偏差)このときの短期安定度はNICTの時計レーザーの安定度で決まっていた。図6 2台のSr光格子時計の周波数差両光格子時計の外場の擾乱による周波数シフトは補正している。赤と青のエラーバーはそれぞれ、統計不確かさと系統不確かさを表す。黒実線と黒破線は、それぞれ重み付き平均と全系統不確かさである。ビート周波数(Hz)時間(s)3.7Hz図7 遠隔地の2台のSr光格子時計の周波数差の時間変化3.7Hzの周波数差は重力シフト(重力赤方偏移)による2.6Hzと両周波数標準の異なる条件での動作による周波数補正量の差に起因する。1054-5 ストロンチウム光格子時計の周波数比較及び時系生成への応用

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