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仏国と伊国の国境近くのアルプスに運んだPTBの可搬型87Sr光格子時計と伊国トリノに位置するINRIM(イタリア計量研究所)のイッテルビウム(171Yb)光格子時計の間の光ファイバリンク(光ファイバ長150km)で行った周波数比測定を基にした1000mの標高差の検証も報告されている[30]。衛星双方向搬送波位相比較法による遠隔地光時計の直接周波数比較   4.1NICT—PTBリンク本研究ではNICTが世界を先導して開発を進めている搬送波位相を用いることで短期安定度を改善した衛星双方向比較法TWCP[6][31]を用いて、およそ9000km離れたNICTとPTB間で光周波数標準の直接周波数比較を世界に先駆けて実現した[32][33]。図8のように、NICT本部ではTWCPで比較する水素メーザーHMNICT(周波数 )にTi:Saコム[13][14]を位相同期した。このTi:SaコムとNICT-Sr1の安定化レーザー(周波数 )の間のビート信号を周波数カウンターで計測し、NICT-Sr1を基準としたHMNICTの周波数変動( )を測定した。PTBでも同様に光周波数コムを介して[34]、TWCPに用いる水素メーザーHMPTB(周波数 )の87Sr光格子時計(周波数 )を基準にした周波数変動( )を測定した。TWCPでは、東経80°の静止衛星AM2を利用した。1日あたりの計測時間はAM2の運用時間に制限され10:05UTC(協定世界時)から22:59UTCの13時間程度であった。両局のAM2との送受信信号の搬送波周波数は、それぞれおよそ14GHzと11GHzであった。送信信号は両局の水素メーザー10MHzを参照周波数にしており、受信信号の周波数はこれらの水素メーザーに対して測定された。TWCPでは以上のようにして、水素メーザーの周波数比/ を測定した。直接周波数比較では両局の光周波数標準が同時に通常動作している必要がある。一方で、光周波数標準は周波数や強度の安定化された複数のレーザーで構成されており、どれもがその安定化を維持している必要があるため、日々改善されてはいるものの連続運用し続けることは現在でも難しい。そこで、NICTとPTBの間で同時に光周波数標準が運用している時間(オーバーラップ時間)を可能な限り延長するために、PTBでは87Sr光格子時計に加えて、イッテルビウムイオン(171Yb+)の八重極遷移2S1/2(F = 0)−2F7/2(F = 3)を用いた単一171Yb+光時計も同時に運用した。また、PTBの87Sr光格子時計と171Yb+光時計の確度はそれぞれ、4×10–17と7×10–17であり、お互いの周波数比( )は17桁の不確かさで測定されていた[35]ので、Ti:Saコムを用いて171Yb+光時計を基準としたHMPTBの周波数変動( )も測定し、171Yb+光時計を仲介周波数標準に用いた。以上の測定から、次の2式を利用して光格子時計の周波数比 を求めた。4室外室内TWCPシステムTWCPシステムHMPTBHMNICT1 pps10 MHz1 pps10 MHzファイバーリンク87Sr171Yb+87SrNICTPTB静止衛星図8 TWCPによるNICT—PTB周波数リンク各光周波数標準はTWCPの参照信号である水素メーザーの周波数を評価する。一方、TWCPでは両局の水素メーザーを比較する。両局の光周波数標準の動作しているオーバーラップ時間を長くとれるようPTBでは87Sr光格子時計の他に仲介周波数標準として171Yb+光時計も運用した。106   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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