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   −1=∙∙−1 (3)   −1=∙∙∙−1 (4)(3)式はPTBの87Sr光格子時計が通常通りに動作していた場合、(4)式はPTBの87Sr光格子時計が止まっていて、かつ171Yb+光時計が通常動作していた場合である。NICT-Sr1とPTBの87Sr光格子時計のオーバーラップ時間は69 840sであったが、171Yb+光時計を含めることでオーバーラップ時間は83 640sに延長された。NICTとPTBからのAM2の仰角は、それぞれ16.0°と3.7°と非常に低いため、電離層による遅延の時間的な変動が大きい。この点が長基線の衛星リンクの不利な点であるが、電離層のデータを利用してこの遅延を補正した。4日間測定した内の1日分の測定結果を図9に示す。図の各点は60s平均であり、光周波数標準の系統的な周波数シフトと電離層による効果は補正されている。衛星リンクの統計不確かさは、4日間の全データのアラン標準偏差(図10)をオーバーラップ時間まで外挿して1.2×10–15と評価した。ここに、それぞれの周波数標準の確度と、GPS搬送波位相解析との間で相対評価したTWCPの系統誤差1.0×10–15[31]及び両拠点の重力赤方偏移による周波数シフト差の不確かさ1.0×10–16を考慮し、周波数一致を(1.1±1.6)×10–15と結論づけた。今後さらに高精度な周波数比較を実現するために、信号送受信部の温度環境の向上や今回の水素メーザーに相当する参照周波数発振器の安定度改善、より良い電離層遅延の時間変動の評価などシステムの改善に努める。4.2高安定な仲介周波数標準を使わないTWCP人工衛星を利用した周波数比較には、比較を行う両局に標準時系や水素メーザー、セシウムやルビジウム原子時計など周波数リンクの仲介となる安定なマイクロ波周波数標準が必要である。そのため、人工衛星を利用した周波数リンクは通常は限られた標準研究所でしか実現できない。そこで、この仲介周波数標準の代わりに周波数比較を行う光周波数標準から生成したマイクロ波を利用して、高安定な仲介周波数標準を使わない周波数リンクに着目した。同時に、本研究ではTWCPに可搬型システムを用いた。可搬型TWCPのシステムとYb添加光ファイバコム(Ybコム)をNICT本部に設置し、Ybコムを介してNICT-Sr1から生成した10MHzを可搬型TWCPシステムの参照信号とし、標準時系UTC(NICT)を参照信号としたTWCP固定局との間で周波数リンクした。このリンクにより、NICT-Sr1を基準にUTC(NICT)を測定した結果(周波数比 )はBIPMが報告する時刻差UTC−UTC(NICT)から求めた周波数比(/ )と、UTC−UTC(NICT)のリンク不確かさ2×10–15の範囲で一致した。このときのNICT-Sr1の系統不確かさは9×10–17であったので、Ybコムを含む周波数変換システムとTWCPシステムの不確かさを15桁前半と評価した。この可搬型TWCPシステムとYbコムを大阪大学豊中キャンパスに持ち込み、Ybコムを用いて同大学占部研究室の単一40Ca+イオン光時計からマイクロ波10MHzを生成した。TWCPにより、このマイクロ波とNICT本部で生成するUTC(NICT)を周波数比較し、400sで3×10–15の安定度を得た[36]。以上より、仲介周波数10-1510-14(s)(νNICTSrνPTBSr−1)×10-14(s)図9 TWCPによるNICTとPTBの光格子時計の周波数比の時間変化各点は60s平均で、両周波数標準の系統的な周波数シフトと電離層による効果は補正されている。全4日間のうちの1日分の測定結果。図10 NICT—PTB間の光格子時計の周波数比較の相対安定度青とオレンジはそれぞれ最終日(1日分)の安定度と4日間全てのデータを用いた安定度。周波数比較の安定度はTWCPのリンク安定度によって制限されていた。周波数比較の統計不確かさはアラン標準偏差を4日間のオーバーラップ時間まで外挿して評価した。1074-5 ストロンチウム光格子時計の周波数比較及び時系生成への応用

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