標準を使わないTWCPを利用して、遠隔地にある光周波数標準のUTC(NICT)を基準にした周波数測定が可能であることを実証した。これにより、安定なマイクロ波周波数標準を持たない一般の研究所や大学、フィールド実験のような施設外でも、TWCPによって高精度な周波数リンクが期待できる。また、将来的には、TWCPの両局で光周波数コムを用いて光標準周波数から参照マイクロ波を生成することで、TWCPの短期安定度が制限されている要因のひとつとして挙げられる参照周波数の短期安定度の改善も期待できる。4.3NICT—KRISSリンクTWCPを用いて、NICT本部からおよそ1100km離れた韓国テジョンに位置するKRISSの171Yb光格子時計[37]と周波数比測定を実施した[38]。図11のようにNICT—PTBリンクと同様な実験であったが、違いは周波数比測定であることと、比較的近距離でのTWCPの周波数リンクであった。NICTではYbコムを用いてNICT-Sr1から生成した100MHzと水素メーザーHM(NICT)の100MHzを比較し、NICT-Sr1を基準とした周波数変動( )を測定した[39]。ここで、y はy()=() を表しており、時刻 に測定した周波数() の設定周波数 からの差を で除した無次元量である。ここでは規格化周波数偏差と呼ぶことにする。KRISSでは、光周波数コムを介して171Yb光格子時計の光標準周波数とKRISSが生成する韓国の標準時系UTC(KRIS)との間で周波数変動 を測定した。TWCPには、静止衛星Eutelsat 172Aを利用した。この衛星に対する両局の送受信信号の搬送波周波数はそれぞれ14GHzと11GHzであった。そして、TWCPにより、HM(NICT)とUTC(KRIS)の周波数変動( )を測定した。以上の測定から、次式を利用して、 を求めた。 ≈{1+() − +() −() ∙ (5)ここで、 と は規格化する周波数で、それぞれの絶対周波数を用いた。本研究では、3日間で正味12時間の測定を実施した。それぞれの日に得られた測定結果を図12(a)と(b)に示す。詳細は文献[38]に譲るが、各日の統計不確かさの平均を√3 (イベント数の平方根)で除して、3日間の統計不確かさとした。TWCPの系統不確かさは通常のGPS搬送波位相解析とそれを改善したIPPP[40]による周波数リンクを相互比較して1×10–16とし、このときのNICT-Sr1と171Yb光格子時計のそれぞれの確度5×10–17と1.2×10–16、両局の重力ポテンシャル差による周波数シフト差の不確かさ4×10–16を考慮し、周波数比 を下記のように不確かさ5.8×10–16で決定した。==1.207 507 039 343 337 90 (70) (6){}静止衛星室外室内TWCPシステムTWCPシステムUTC(KRIS)HM(NICT)1 pps10 MHz1 pps10 MHz87Sr171YbNICTKRISS図11 TWCPによるNICT—KRISS周波数リンク両局では、TWCPの参照信号である水素メーザーの周波数を各光周波数標準で評価する。一方、TWCPで両局の水素メーザーを比較する。108 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準
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